Nu blog

いつも考えていること

2020-01-01から1年間の記事一覧

フィールド・ノート(第11話)

ショーウィンドウの中にたくさんのサンドイッチが詰められている横をすっと通り過ぎて、聡子はフルーツサンドが好きだけど、自分はあんまり好きじゃないなとか考える。ちょっとずつ不安げな表情をした通勤者たちが行き交う朝の地下街で、フカミはシャツの袖…

健康志向の罠

悪名高いアマゾンプライムで『すべての政府は嘘をつく』『スーパーサイズ・ミー』『スーパーサイズ・ミー2』を見た。 悪名高いってのは松本人志や三浦瑠麗をCMに起用していた話で、解約運動などが起きたことを指しているだけで、深い意味はない。徴兵制を訴…

フィールド・ノート(第10話)

パソコンの画面を見続けていると今が昼か夜か分からなくなる。画面の右下に表示された時間を見ると、気がつけば夕方の四時だったりする。それで窓の外を見てみると、まだまだ明るいから、ずいぶん日が長くなったね、なんて雑談を少し交わしたりする。あるい…

梅棹忠夫『メディアとしての博物館』

学芸員の勉強をしていると、よく見かけた参考文献の一つに、梅棹忠夫の『メディアとしての博物館』がある。 ご存知、『知的生産の技術』の著者であり、京大式カードの生みの親である梅棹忠夫は、国立民族学博物館の館長として博物館学の発展にも寄与した人物…

フィールド・ノート(第9話)

改札前にはもう、ダイキとフトーがいた。「おーす。寒ない?」 フカミはよれよれの長袖シャツ一枚のダイキに声をかけた。「今は寒ない。着るもんなくてなんか羽織ろうとしたら、冬物しかなかったから」 フトーを見やると、こっちも黒いVネックの長袖シャツ…

夏のウロウロ

本当ならば学芸員資格取得のための博物館実習を受けていた夏、私は何をするでもなく彷徨っていた。 泊まりでの実習が予定されていたため、新型コロナウイルス感染症を懸念して、延期となったのだ。延期後の開催時期は定かではない。 長い休日を美術館とサウ…

フィールド・ノート(第8話)

没入する感覚があって、人が通り過ぎると目の前のカチカチを押す、という流れに自分の能力が高まり、目と脳がセンサーとなり反応があれば手がカウントする機械になったような、自信みたいなものがみなぎってくる。見ているところと自分の存在以外は後景とし…

10年ぶりに東浩紀を読む

2008年に大学に入ってすぐ、東浩紀の『ゲーム的リアリズムの誕生―動物化するポストモダン2』が流行ったのを覚えている。宇野常寛の『ゼロ年代の想像力』も発刊されて、「批評」ブームが来ていた。 どこの大学でも、頭でっかちな連中の間はだいたいそうだった…

フィールド・ノート(第7話)

ベッドの悪い方から起きたら機嫌が悪い、という話を子どもの頃に読んで以来、朝起きた時になんとなく不機嫌なことがある度、それを思い出すのだけれど、どうしてその対処法はないのだろうと続けて思ってしまうからますます機嫌が悪くなるのだった。 今朝のフ…

消費者でしかない自分を肯定できるか

私の我慢はいつかどこかで報われるはず、と信じたい気持ちはよくわかる。私もそう思う。でも、我慢してるだけで何かが動いたことってない。幼い頃家族や歯医者さんに褒められるくらいのことで、それ以外の人が我慢したことを褒めてくれたりはしない。 そのう…

フィールド・ノート(第6話)

日曜日の十二時半頃、フカミと聡子は椅子S席西側六列目三十七番三十八番に座り、ゴーゴーイチの蓬莱の豚まんじゅうを食べていた。フカミは聡子に対して何度も、四横綱土俵入りが観られなかったこと、冥途の土産に観たいこと、観たからと言って大したことは…

青森の思い出

七月の四連休、青森を訪れた。 六月中旬くらいのお出かけ解禁感のある頃に予約していたし、あんな直前にキャンセル料がどうのこうのと騒がれても、困る。 ゴートゥーがどうとかこうとか言う前に「出かけたいし出かけよう」と思っていたので、世上や賢明な人…

フィールド・ノート(第5話)

そろそろ春になってもらっても構わんぞ、というような晴れの日があったかと思えば、恐縮ですがまだまだ冬ですよ、というような寒い日に戻ったり、それを春へと向かう足取りだと前向きにとらえられるほどポジティブではないので、フカミは一回あったかい日に…

どうぶつの森

一年前、ヨッシークラフトワールドをするために買ったニンテンドースイッチは、昨年の後半から埃をかぶっていたが、二ヶ月ほど前からどうぶつの森をやり始めて、毎日元気に稼働している。 当初はしょぼい釣竿や虫取り網を何度も壊して、木を揺らしては枝を集…

フィールド・ノート(第4話)

うーわ、全然数字合わへん。フカミは何度も資料の端から端まで数字を見回し、のたうち回っていた。いや、足し算は合う。エクセルは足し算を間違えません。母数である社員数が、昨年の数字と比べた時に大幅に減っているのだが、社員が大幅に減ったなんて話は…

サブカルについて考えるとき

サブカルについて考えるとき、サレンダー橋本先生の傑作「初対面のサブカルの知識の探り合い」を思い出す。 この漫画の冒頭に掲げられた「ポップであるくらいなら俺は死ぬ」には衝撃を受けた。 なんせ私は文学少年で、中原中也がどうとかガブリエル・ガルシ…

フィールド・ノート(第3話)

「明日の午後から大雪となるでしょう」 と天気予報士氏が様々な注意喚起を述べていたら、本当に午後から雪が降りすさみ、当たり一面真っ白になった。 満員混雑の電車をようやく通り抜けて家路へ歩いていると、子どもや犬がはしゃいでいた。なるべく誰も踏ん…

幸せな気持ちになれるなら

世界には最終回がないと気づいても、人間は世界の終わりの日を想像している。キリスト教徒が最後の審判を夢見るように、今日もドラマは最終回を目指して放送される。愛する男に手を引かれて、結婚式場を逃げ出した花嫁のその後を誰も知らないでいたいけれど…

フィールド・ノート(第2話)

玄関先に積んであるコープさんの荷物を目にすると、もう二年もこの契約を続けているのに、いつも感動してしまう。エレベーターのない三階までお米やジュースを運んでくれて、本当にありがとう。でも、玄関先じゃなくて、できたら冷蔵庫に入れるところまでや…

いろいろ

坂本裕二「スイッチ」 何がすごいのかわからないが、なぜか泣きそうになった。高校生時代の二人、よかった。 吾妻ひでお「失踪日記」「失踪日記2 アル中病棟」 うっしっしと笑う配管工時代の先輩、柳井さんの顔が忘れられない。 アル中病棟での日々はほんと…

フィールド・ノート(第1話)

キッチンに冬の柔らかな日が差し込んでいた。築半世紀を越えようとする社宅は、日当たりは抜群だったから、晴れた冬の午後は暖房も要らない。けれどフカミがとっくり、スウェット、さらにフリースを着ていたのは、つい数時間前までこの部屋が外と同じ程度に…

六畳一間の暮らし

交番の二階が気になる。 というのも、都内の交番は割と古いものが多い。築半世紀といった風情の佇まいである。 免許の更新や書き換えで警察署へ行くと、その立派なことに驚く(ありがたいことに、今のところそれら以外の理由で警察署に伺ったり、お呼ばれした…

詩(合点)

排水口が音を立て 私は不意に合点がゆく 萩原恭次郎の詩に触れたような そんな日々はもう私には来ない しかしこの世界のどこかに 今初めて彼の詩を読みワクワクしている若人が いると信じていたい 一人くらい…

東京都庭園美術館、東京都写真美術館、東京都現代美術館、三菱一号館美術館、国立近代美術館

東京都庭園美術館 6/1から再開。東京モダン生活展。検温あり、ウィンターガーデンに入れなかったり、新館から外へ出る動線になっていたりした。もともと人の多くない美術館であり、開放的な建物だから、のんびりした空気が漂っていた。ビデオ上映していた部…

詩(コンビネーション)

あれ と これ を 入れ替える と ピンク色のパンダができて それら と あれら を 混ぜて こねたら 電話しながらダダイストが歩いてく まるで と もしも が 合わさって 夜の帳に花が咲く 嘘じゃない と 大好きだよ がすれ違って 時計の針から 血が垂れる

松田青子、江國香織、チョン・セラン、李琴峰、チェ・ウニョン、町屋良平、書肆侃侃房、文藝、中村桃子、山内マリコ、上野千鶴子

松田青子「持続可能な魂の利用」 おじさんが見えなくなった社会とその前夜を織り交ぜて進む物語。 欅坂46とそのセンターである平手友梨奈(作中ではグループ名は伏せられ、平手友梨奈は××と表記される)に惹かれる女性を中心に話は進んでいく。 ツイッターで見…

詩(夕暮れ)

その夕暮れを眺めていた 少しの段差に蹴躓いた日 この先同じことが続くと知った日 私が水を湛えた薄い皮膚だと悟った日 地を赤く染め、長く伸びた影が折れ曲がる 水面に散乱する光、名残惜しそうに別れを告げる子どもら もう散ってしまった花弁、すり減った…

藤井風、KID FRESINO & カネコアヤノ、柴田聡子

藤井風「HELP EVER HURT NEVER」 「何なんw」は強烈だ。そのセンスフルなリズムとエロティックな歌声ががつんとくる。「宇多田ヒカル以来の衝撃」なる評もむべなるかな。 つづく「もうええわ」や「調子のっちゃって」「特にない」など、異世界から来たような…

詩(後日譚)

私に後日譚 できもしない約束を 掲げた政治家の無為な数年 私たちに後日譚 ありもしない幻想を 支え腰を患った若者ども この世界に後日譚 使いもしない紙袋を 仕舞い溢れたタンスの襖 無も永遠もなく サクラメントを 見るものもいない 皆メソメソと泣く

焼畑にて

五月末日のこと。東京上空を行くブルーインパルスを見た。 近くの病院の横を通ったら、看護師さんやお医者さんらがこぞって上空を見上げていた。五本線の雲を指差しているから、何か事故でもあったのかと思った。 調べてみたら、医療従事者への感謝と敬意を…