Nu blog

いつも考えていること

六畳一間の暮らし

交番の二階が気になる。

というのも、都内の交番は割と古いものが多い。築半世紀といった風情の佇まいである。

免許の更新や書き換えで警察署へ行くと、その立派なことに驚く(ありがたいことに、今のところそれら以外の理由で警察署に伺ったり、お呼ばれしたことはない)。

お役所的に言えば「全国津々浦々ある交番を建て替えは今後検討していく必要があると認識しているものの、耐震性に問題を生じているものではない一方、喫緊の課題として多くの市民が利用する本部組織について、機能が集中するとともに高度化していることから、利便性の向上および業務の効率化を図るためにも最新化を優先すべきもの」、簡単に言えば「交番に回す金はない」ということかもしれない。

とんがり屋根で有名な銀座の数寄屋橋交番は1982年のものだそうで、築三十八年。シンボリックな交番がそうなのだから、大抵の交番も築三十年以上なのではないか。

高卒や大卒で警察官になった人が定年退職するまでの間、一度も建て替えられず朽ちていくってのは、なかなかちょっとどうなんだろうか。それなりのサイクルで建て直されていってほしい気がする。そもそも壊しやすくするとか補修しやすくするとか、何か工夫できないのか。

町中でよく見かける施設といえば郵便局だが、あれもやたらボロボロなところがある。とはいえたまにこざっぱりした新しい郵便局に行くと、味気なく感じる。ハガキや書類の行き交ったニオイがしない、とでもいうのだろうか。働く人にとっては新しい方がいいだろうから、勝手なノスタルジーだが。

 

さて、交番の二階のことだ。すっかり忘れてた。

大抵二階には小さな窓があって、カーテンが閉められている。そのカーテンも大変に無機質な、事務用品って感じのカーテン。広さは推測するに六畳一間。

漫画「こち亀」の派出所は奥に仮眠室があった。両津勘吉がプラモデルを作ったりゲームをしていたあの畳敷きの部屋だ。

そういえば「こち亀」は1976年からの作品。派出所が老朽化したから建て替えよう、というエピソードは寡聞にして知らない(作中、何度も爆破されているけれど)。

なんにせよ交番の二階はまあ仮眠室だろう。ということは布団があるのだろうか? テレビは? 大昔の雑誌が転がってたりしないだろうか。男性文化だろうし、代々受け継がれたエロ本が隅に積んであったりするのだろうか? 小さな冷蔵庫でビールを冷やすようなことは、さすがにないか。

あの直方体の不愛想な建物の中に、実は生活感が潜んでいるのだと聞くと、なぜかワクワクしてしまう。深夜二時頃にでもお邪魔して、トランプの大富豪とかウノとかそんなことをしてみたい。

そんな子供みたいなことを考えながら関連するワードで検索していると、そこで不倫に及び処分された警察官のニュースを見つけてしまった。六畳一間畳敷き、煎餅布団が敷かれているとくれば、汗臭い気配が漂わなくもないが、なんだかつまらない。

昭和ロマンポルノのような、どろっとした性の気配を感じるのはうんざりする。ウェッセルマンのカラッとした乳房や果物、ティッシュなどを見て気分を変えたくなる。

 

初めて一人暮らしを始めた時、六畳一間の社宅をあてがわれた。綺麗にリフォームされていたから、何も不満はなかった。小さなテレビや本棚で満たされた部屋は、動かなくてもすべてに手が届いて過ごしやすかった。

今も広い家に住んでいるわけではないが、あの手頃なサイズが懐かしくなる。

六畳一間での休日はすぐに過ぎた。音楽を聴いて本を読んで昼寝して、ちょっと飲酒してご飯作って食って、風呂入って寝る。今だって同じようなものなのに、その頃のそれとはなんだか少し感触が違う。

その感触を思い出したくて、交番の二階に子供じみたワクワク感を覚えるのかもしれない。

少しだけ、物を持ちすぎたのかもしれない。