本当ならば学芸員資格取得のための博物館実習を受けていた夏、私は何をするでもなく彷徨っていた。
泊まりでの実習が予定されていたため、新型コロナウイルス感染症を懸念して、延期となったのだ。延期後の開催時期は定かではない。
長い休日を美術館とサウナに費やすことにした。
横浜美術館とプロット48を舞台にたくさんの展示が並ぶ。特徴は作品の横に掲示された解説文で、キュレーターのポエミーな文と作家本人の謎めいた言葉と学芸員によるふんわりした解説が掲載されている、異色の三部構成。
正直な感想を言えば、よくなかった。結局その作家や作品の背景が見えなくなっていた。謎めいた言葉にぼやかされ、重要な問題が見えなくなっているように思えた。
記憶に残った作品は以下。
タウス・マハチェヴァの「目標の定量的無限性」はメンタルに来た。「女の子なんだから、おとなしくしなさい」とか「男は泣いちゃダメ」とか「いつまでもフラフラしてないで、ちゃんとしなさい」みたいな「日常生活でしばしば耳にする、人の行動を制御するための抑圧的なフレーズと、変形した体操器具」が展示されている。あまりにも辛すぎて泣いちゃいそうになる。
ジャン・シュウ・ジャンによるストップモーション・アニメーションは音楽の中毒性もあって随分楽しかった。奥の部屋にセットが設置されていて、その廃墟感もグッド。
アモル・K・パティルの手のひらを土が這い回る作品はざわざわする感じがいい。
ジョイス・ホーの「バランシング・アクトⅢ」は日に照らされて、ゆらゆら揺れてて可愛らしかった。「ロッキング・チェアのように揺れる脚のついたフェンスとアーチ状のゲートを一列に配した、人が通り抜けることのできる作品。人々を時に統制し、時に護るものともなるフェンスは、ここでは、押しても倒れることはなく、不安定に揺らぐのみである。」うーん。
「なんでもない日ばんざい!」という振り切ったタイトルの展覧会で、これまでの賞作品からの展示。奇を衒ったものはない。絵画という二次元の平面帯を鮮やかな色彩や技量が満たしていく。絵画作品の豊かさを見せつけられたと感じた。
いつも文句を言う狭さが、ちょうど手頃な感じに。
・千葉市美術館
リニューアルオープンを記念して大量の作品が展示されていた。大量の作品に大量の解説。学芸員の気合いを感じる。幼少期以来のタイガー立石に驚いた。変な絵本と思ってたが、アーティストによる作品だったとは…。「とらのゆめ」、何度も読んだなあ。
きれいになった図書館で過去の図録から、菅木志雄展を熟読。栃木に菅作品の置いてある旅館があるらしい。ぜひ行きたい…。
・森美術館
STARS展と題してビッグネームの作品が並ぶ豪華な展覧会。
部屋に入るとすぐ村上隆の初期作「ko2ちゃん」「マイ・ロンサム・カウボーイ」「ヒロポン」らキッチュな作品が並ぶ。ほんと悪趣味ですよね。しかし、実物を見たのは初めてだったので、ちょっと嬉しかった。
そして新作「原発に行ったよ」の底知れない悪意。デモに参加したけどよくわからんかったから直接原発を見に行った、というストーリーからして意地の悪さが迸っとる。
次の間には李禹煥。打って変わって、としか言いようがない。地面に石が敷き詰められ、モノ派ここにありといった感。
そのほかビッグネームの初期作と最新作が見られて、ほんと豪華だなあと思いました。すごい。
こちらもリニューアルオープン。何年か前に鈴木其一を見て以来か。
所蔵する名品がたくさん並べてあったが、あんまり関心が起きなかった。うーん。今後の展覧会に期待。
・角川武蔵野ミュージアム
所沢、初めて行った。平たい家の連なる町に突如現れる(隆起する)岩のような建物。その存在の堂々たるや。
道中萌えキャラっぽい絵の描かれたマンホールがあって不思議に思ってたら、みんな角川の作品なんですね。ライトノベル図書館という角川の出版物が山のように陳列されたコーナーがあって、異様な感じがしました。
11月以降本格的にオープンし、すごい図書館ができるらしいので、また行ってみようかと思う。
・熊谷守一美術館
国立近代美術館の熊谷守一展はすでに2年も前のことなんですね。つい最近見たような気がしてしまう。
小さな美術館は次女の榧さんの思い入れたっぷり。作品解説にも登場して「相続税が高かった」とか「背景が変な色になっていたのを塗り直した」とか饒舌なのも可愛らしい。土曜日に行ったのですが、1時間ほどいたのに他のお客さんはとらず。
とてもいいとこなのでみなさん、池袋に行く際は一駅足を伸ばすべし。
そしてサウナは以下のところに行った。どれもよかったですが、とくに所沢は白眉でした。
・萩の湯
・ジートピア
・アダムアンドイブ
・ベッドアンドスパ所沢
・スパ ラクーア
いつになるかわからないが、博物館実習の件が終われば勉強も一段落である。
ユーキャンで油絵を習うことにした。教材が届いた。デッサンを始めた。リンゴのデッサンだけでも苦労する。ものを見ることの難しさ。大切なものを描こうと思う。