Nu blog

いつも考えていること

健康志向の罠

悪名高いアマゾンプライムで『すべての政府は嘘をつく』『スーパーサイズ・ミー』『スーパーサイズ・ミー2』を見た。

悪名高いってのは松本人志や三浦瑠麗をCMに起用していた話で、解約運動などが起きたことを指しているだけで、深い意味はない。徴兵制を訴えたら不買運動が起きるとは、恐ろしい国である。個人個人の不買行動はそれぞれのお気持ちなので何も言えないが、「運動」化しようとするところに疑問を持った。

ネトウヨ的要素の強いタレントをCMに起用していても、用意された番組には上記のような反政府、反巨大企業的なものもあるわけであるが、今回運動化しようとした皆様はそのあたりどのようにお感じになるのでしょうか。いや、別に知りたいわけではないです。

 

さて、『スーパーサイズ・ミー2』について書きたい。

もちろん『すべての政府は嘘をつく』も面白かった。大手メディアが政府の発表に疑問を持たず、セレブリティのゴシップなどに時間を費やす様を強烈に批判していた。特に、生放送で議員にインタビューしている途中に、ジャスティン・ビーバーの逮捕を割って入れて報道するシーンはかなり象徴的だ。しかし、まあ、そんなメディアの不甲斐なさは知ってたことでもある。うんざりする。

 

さて、前作『スーパーサイズ・ミー』は2004年の作品。すっかり昔のことだ。もう16年も前なのである。中学生であった。話題になったことを覚えている。

自分が中学生の頃のマクドナルドといえば、通常のハンバーガーが80円くらいで売られていた頃と記憶する。デフレ極まってますね。そんな時代に過ごしたせいか、マクドナルドで700円払うとか今じゃ普通のことなのに、毎度ものすごく贅沢をしている気になる。

作品は監督が体を張ったドキュメンタリーである。

毎食マクドナルドのメニューを食す、店員に「スーパーサイズはいかがですか」と聞かれたら「イエス」一択、というルール。

途中ドクターストップを告げられるもなんとかやりおおせる。しかし、体はボロボロ。

いくらマクドの広報に取材を申し込んでも取り次いでもらえないシーンも挟まれる。ドキュメンタリーらしいドキュメンタリーで、社会派的な目線も重要だが、終始エンタメ要素を忘れない編集も見どころだ。

スーパーサイズはエグい。あんなどでかいハンバーガーとポテトを食えと言われても、僕も吐いちゃうだろうな。

 

スーパーサイズ・ミー2』は2019年の公開。冒頭、監督スパーロックに「うち(ファストフード店)のCMに出てくれないか」とオファーが来る。

ファストフード業界の敵、スパーロックにまさかの依頼だ。CMの内容は「あんな批判していたファストフード店に来てみたら、すっかり健康的で優良になっているじゃないかと納得する」というもの。

このオファーが監督の気持ちに火をつけてしまう。寝た子を起こすとはこのことか。「本当にファストフードは健康的になったのか、みてやろうぜ!」とラランドのサーヤばりで、「自分でファストフード店を開く」ことを目的に業界研究を始める!

業界研究を始めると、十数年前と異なって、店内は木目調、ナチュラルな雰囲気で健康的なムードが漂い、食品の栄養表示もきちんとされている(前作で栄養表示を見せろと各店舗を回ったら「地下にある気がする」とか「そんなもの見たことない」とか、果ては看板の裏に隠されていたりした)。「私たちの取り組み」みたいな冊子には「ナチュラル」「手作り」「ヘルシー」の文字が。

しかし、よく見てみるとどうだろうか。壁に書かれた「職人」の文字は何か表しているのか。いいや、厨房を除いてみればアルバイトが流れ作業をしているだけだ。「ナチュラル」ってなんなのか? 国に問い合わせても言葉に定義はないという。「手作り」ってなんなのか。アルバイトの流れ作業も手作りに含められているようだ。しまいには「卵を手で割っている(by hand)」という案内まで。当たり前だろ!

フライドチキンはクリスピーチキンと言い換えられて、揚げ物として変わりはないののにヘルシーな雰囲気。「ホルモン剤不使用のチキン」と強調されているから調べてみたら、「法律上鶏を育てる際にホルモン剤の仕様は禁止されている」とのこと。ってことはすべてのチキンはホルモン剤不使用じゃねーか!

当たり前のことを特別みたいに書いてんじゃねーよ!

 

実際日本でも、各種ファストフード店に行ってみると、「健康そうな雰囲気」に満ち溢れている。

昔はマクドナルドは健康に悪いイメージがあったのに、昨今はそんなでもないんじゃないの、たまに食べると美味しいよね、みたいな感じである。季節ごとの期間限定バーガーは押さえておきたいよね、とか(つい先日、月見バーガー食べちゃった)。

以前「マクドナルド壁画」というのが話題になったことがあった。トマトの断面だのレタスだのを壁神にしてたり、モダンさで清潔感を生み出したり。

omocoro.jp

この記事は全く『スーパーサイズ・ミー2』の指摘した問題点と通じるところがあったわけだ。

 

さて、スパーロックが開店したファスト・フード店は緑を基調とした綺麗な店内の壁に、ポップな字体でファストフード業界の闇を書き出す。

お客さんたちは行列にならびながらその文章を読む。困惑した顔をしながらもチキンサンドにパクつくお客さんたち。「フライドチキンじゃないよ、クリスピーチキンだよ」なんてスパーロックに絡まれて顔のひきつるお客さんもいる。全く悪趣味なオチである。めちゃくちゃおもしろい。

 

健康ハロー効果を取り上げた部分ばかり書いてしまったが、養鶏業界の闇も深かった。品種改良により成長スピードを速められ、途中からは自分の重さでもう動くことのできない鶏たち。見えない尺度で競争を煽られ、新たな機器で借金を背負い、永久に搾取される養鶏家たち。資本主義は品種改良を繰り返している。鶏だけじゃない。そのビジネスモデルはどんどん悪質に、より巧妙に搾取する方向へ「改良」されているのだ。その「改良」は、誰にとっての「良い」ことなのか? 

身の回りにあるいつもの商品を見てみると「手作り」「産地直送」「丁寧に作りました」「品質にこだわり」といった健康志向な言葉が並ぶ。大抵のものは人間の手が入るから「手作り」だし、農家から工場へ直接搬送されてたら「産地直送」だし、普通の商品は「丁寧に」「こだわ」って作ってるもんだ。

メーカーに問い合わせて一体どういう取り組みを指してその表現を使っているのか、マジレスしていきたい気もするが、きっとメーカーの皆さんは嘘をついてはいない。ただ、本当のことをちゃんと言ってないだけ。

自分の身は自分で守る?

いいや、さすがにそれにも限界があるでしょうよ。

しかたがないから、笑って食べるしかない。私たちはイメージを食べて生きているのだ。