通学路から
一本入った道の交差点で
君を待つ
電信柱に背中を預け
本を読む
寒くもなく暑くもない五月
昨日降った雨の作った水溜りから
春の匂いが立ち上っている
カーディガンの袖を捲り
七分丈にしている
君があと
どれくらいで来るかわからないから
物語に少し集中できない
待っててね、と君は確かに言ったから
私は待っている
スーツ姿のおじさんが
横断歩道を渡る
私をちらっと見る
頁を繰っている私が
文学を嗜んでいる人に
見えていたら嬉しいが
あの人にそう見えていたとして
あるいは見えていなかったとして
何も起きはしないが
どうしてだろうか
そう見えて欲しくて
欲しくて欲しくて
この気持ちを
止められない
今は
この気持ちのせいで
物語に集中できなくなった
君はまだ来ない
部活が終わり
着替えて
じゃあねとみんなに手を振って
ここへ来るのに
三十分はかからないだろうと
勝手に見積もるが
もしかしたら
校則で決まっている部活の終わりの時間が
顧問が怒ったりとかなんかしたせいで
大幅に延びたり
着替えの最中に
同学年の間で揉め事が起きて
話し合いが始まってしまったり
単におしゃべりが盛り上がって
なかなか着替え終わらなかったり
もしくは
みんなで帰ろうと誘われて
断れずにもう
すぐそこの道を
通り過ぎてしまっている
そんなことも
ありえる
君がまだ来ないから
可能性をたくさん考えて
ずっと物語に集中できない
明日からは
短篇小説とか
新書とかを
読むことにしようか
少しだけ
文学を嗜んでいる感じが減るから
嫌だけど
今なぜ主人公が
怒って怒鳴った後に悲しんで
ベッドに突っ伏しているのか
少しわからないでいる
君はきっと
ここへ来たらすぐ
今どんな感じのところ?と聞くだろうから
それに上手に答えられそうにない