Nu blog

いつも考えていること

詩『第四十九回衆議院議員総選挙に寄せて』


ひやり

体育館の空気

緑色のマットの上を土足でゆく

選挙券を渡し

このような簡易な確認で

私が有権者だとわかったのか

訝しみつつ

私は正当な有権者

と胸を張る

歴史の先端に位置し

投票用紙を受け取る

市民の一人として

柔らかな鉛筆の書き心地を楽しむ

立会人のみなさま

今私が

目の前でなんら不正なく

一票を投ず

誰ぞの名を

どこぞの政党を

裁判官の信任を

私の意思を

ここに投ず

ひやり

体育館の空気

静けさを後にする

ぞろぞろと

人々がゆく

選挙だ

今日は選挙だ



マシな人を選ぶのだとか

その人の主張を見極めるのだとか

実績を知らなければならんとか

人はいろいろ言うのだが

私の一票は

そんなに重いもんじゃない

私の意思の

私の人生の

ほんの一部分

これは私のひとかけら

前の晩切った爪を

ゴミ箱に入れるのと

おんなじようなものでして

ですがこいつも元は私

私の一部

決しておろそかにしてはならない

私のかけら

だから棄権してはならない

でも大したものではない

投票箱はゴミ箱ではない

それくらいの違いでしかない

はて

この爪先

どこへ

だれへ

なにへ

向かって弾こうか

私の爪先

望む先を

指し示せ



私が入れた人が

当選したことがない

私の意見なんて

誰も聞いていないのだ

あくる日の新聞を見て

電車のダイヤが乱れぬように

出社時刻が変わらぬように

ただ獲得議席数が変動し

今日から無職あるいは先生

そんな悲喜こもごもは知ったことでなく

私の今日が

変わらず始まる

この変わらぬ今日を

私は愛する

愛する今日を

奪わせぬために

私は次の選挙まで

国会を見守る

あるいは

何があろうと今日を

この暮らしを守る

政治ごときに

多数決ごときに

揺るがさせはしない

そう心に秘めて

電車を降りる

何をするわけでもない

朝日も

伸びる影も

何も変わらぬ

仕事も

家族も

何も変わらぬ

ただ獲得議席が変動しただけ