Nu blog

いつも考えていること

詩二篇「朧げ」

○不明


ファミマとセブンとローソンの

違いがわかっていない

どこに行けばからあげクンファミチキが買えるのか

いつまで経ってもわからない

コーヒーの買い方もわからない

誰に何を頼めばいいのか

見当もついていない


タリーズドトールサンマルク

違いもやっぱりわかっちゃない

コーヒーの味もわからない

松屋すき家吉野家の違いも

ガスト、デニーズ、ココスの違いも

京急、東急、京王の違いも


兄と父親と上司の違いも

わからない

誰に話しかけても

同じような答えしか返ってこない

耐えろとか粘り強さだとか

いつまで経ってもそんなことしか言ってくれない

誰に何を言っても

虚しい


雲と星と月の

違いもわからなくなった

手を伸ばしても

どれにも届かない

いつまで経っても

落ちてこない

眺めても

眺めても

 

○砂


思い出せないのだ

詰襟の下に

着ていた服を

学生の私が

朝起きて

何を

どうしていたのかも

父や兄のおはようの声

母のエプロン姿

メガネを外したように

ぼんやりと

焦点を結ばず……

飼い犬と交わした会話も

どんなものだったか

ざらりとした舌の感触を

かろうじて

おもいだす


あるいは

母がスーパーで見せる

袋詰めの手つきのはやさや

一月二日に

電気屋に行きたがる父とか

そんなことは

おもいだせる


あるいは

作家の名前

作品名

いつ読んで

どんなだったか

力士の名前

先場所の成績

得意の形

最高位

数年前に見た絵のこと

画家の名前

何派たとかの分類

最近聴いてない音楽

バンド名の由来

歌詞

そんなことも

忘れられない


ついさっきのことすら

少しすれば

あいまいへ消えてゆくが

こびりついて

消えないものもある


ああ

でも

あの日君が着ていた服を

思い出せない

あの日自分が履いてた靴も

どんなのだったか

一緒に食べた

パスタの味も

どんな気温で

何線に乗り

どんな人とすれ違って

何を話して

どう笑ったのか


あるいは

一年前の稟議書に

私の名前が書いてあり

私の判子が押してあるが

ピンと来ないでいたりもする


ああ

もう

私は

現在にしか

いなくなってしまった

もうすこし連続的な

生命だと思っていたが

手のすきまから

こぼれおちる砂

積もる前に

風に吹かれ