寒い夜に勉強をしていた。資格試験の教科書を広げ、ノートに要点をまとめ書き写していた。試験は三ヶ月後だ。教科書はあと半分残ってる。
ユニクロのヒートテックやスウェットを着て防寒していたが、ボロい社宅は寒かった。暖房をつけても、隙間から寒い空気が入ってくるから、気休めにしかならない。
こんな夜、僕は「いしやーきいも、おいも」のメロディを思い出す。しかし続くのは「おいしーい、おいしーい、おいも」ではない。「どんなーときも、きみと」だ。
数年前に見たヘンダーソンというお笑い芸人のネタだ。その時数度見ただけなのに、今もまだ頭に残ってるのだから、奇妙な感じだ。
「あたたまるのは、体だけじゃない」みたいな歌詞が続き、「吸いも甘いも、どんなときでも」みたいなラップパートが入ったりする。J-POPらしいメロディが愛らしくもあり、忘れられない。
石焼き芋の移動販売車を見たことがあるかと言われると、止まっているのは見たことがあるが、走っているのは見たことがない。そして、買ったことがない。
そういえば、宮本輝の短編小説に、軽トラの荷台でスイカを売る話があった。みずみずしいスイカ、夏の暑さ、そんなものが書かれていた。その軽トラも、走っている描写はなかったように思う。
そういえば最近は、スーパーの入り口付近で石焼き芋が売っている。あれは原価率がいいと聞いたことがある。しかし風情がない。「どんなときも、君と」とはならない。「温まるのは体だけ」な感じがする、食べたことはないのだけれど。
テキストに目を戻し、文字を追い始める。気がつけばミッドナイト、夜中二時。どこかでイルカが死んでいるような気がする。