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いつも考えていること

夫婦別姓Eテレドキュメンタリーの感想

夫婦別姓“結婚“できないふたりの取材日記」を見た。Eテレのドキュメンタリーで、本当は2月13日の放送だったのが、地震速報で潰れ、2月17日の再放送が注目を集めることとなった。

https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/Z92N6V4P7Z/

内容の概略は以下。

 

・結婚にあたって、妻が姓を変えたくないことが判明(理由はあるけど、まあ、それはどうでもいいよね。ちなみに番組内では説明されてました)

・夫は姓が変わってもよいと思って親に報告

・夫の親が「なぜお前が姓を変えなきゃならんのか」と反対

・婚姻届の提出は諦めて、事実婚をすることに

・別姓で結婚できたら問題なかったのに、と思うようになり選択的夫婦別姓に関心を持ち始める

家族法を専門とする教授の話を聞いたり、裁判や超党派の勉強会に出席。選択的夫婦別姓制度の実現に期待

・夫の母は少し理解を示すも、夫の父は「同姓であるべき」と譲らない

・反対派の意見を聞こうと議員在職中反対し続けた亀井静香に取材。頭ごなしに怒られる(朝日新聞報道など参照)

・夫「いつか4人でお節を食べる正月を迎えたい」というナレーションで終わり

 

亀井静香への取材がクライマックスシーンになっていて、閲覧注意くらいの前振りがあっても良かったのではないかというくらい醜悪だった。

また、夫の母が「頭下げて言いに来るならわかるけど、さも当然みたいな態度だとちょっと」と言っていたのも印象的だった。

「大学に行くから金を出せ」というのとは違って、自分の名前の話だから、なぜ親に頭を下げないといけないのかいまいちわからないが、親というのは子供に対して「名前を与えた」と思っているから、そういう発想になるのかなあと思う。

あるいは、時代の流れを考えれば自分が誤っているのはわかるが、これまでの言動上それは認め難いので「言い方が悪い」と難癖をつけているだけかもしれないとも勝手に思ったりした。

 

というのは感想。もう少し考えてみたい。

ちなみに、私もこの夫婦同様妻が姓を変えたくない(理由はどうでも良いよね)と言い様々検討した結果(何を検討したかは教えない)、私が姓を変えることにしたところ、周囲の猛反対にあい、いろいろご意見頂戴したものの、最終的には皆様のご意見を無視して、私が姓を変え、今に至る者である。

 

まず思うのは、どうして我々は「法律婚」しようとするのか、である。これはむろん自分に跳ね返ってくる問題であるが、法律婚の意味って考えれば考えるほどよくわからん。

そもそも、日本は戸籍制度が現存しており、法律婚とはそれまで親の戸籍の一部であった人間が新たな戸籍を作るという手続きを指す(なので大抵「入籍」しない(すでに分籍あるいは離婚により「入籍」するパターンもありうるけど)。山崎ナオコーラ的に言えば「作籍」である)。

いわば戸籍の移動でしかなく、そんなもん亀井静香的に言えば「国家の都合」でしかないわけだ。国家の都合ごときはっきり言ってどうでもいいので、無視しても良いのではないか(国家の都合の割に、ほとんどの行政手続きは住民票に基づき実施されてるような気がする。戸籍って単に二重登録でしかないから不要では?(←議論先取りの結論))。

しかし、法律婚でないと税制上の優遇や入院・手術・介護といった重要なイベントにおいて家族とみなされないこともある。というわけで、「国家の都合」で不利益を被るのでこれは由々しき問題である。

なので、法律婚をしたい、と皆様思うわけである。亀井静香的に言えば「国家の庇護を受けたい」ので結婚することになるわけだが、別に庇護を受けたいわけではなく、二人の関係性をあらゆる場面において適切に運用するために法律婚するだけである。

ここんところが選択的夫婦別姓の賛成派も反対派もあまり整理されてないような気がしていて、たとえば同性婚の議論でもそうだが、そもそも法律婚しなきゃならんのか? という問題が議論されない。当たり前のように「結婚ってものがあって」という前提から始まる。

そういう意味において、旧姓使用が広がっているように、事実婚の権利拡大とか、あるいはそもそも戸籍制度の解体くらいまで主張する派閥があっても良いと思う。

誰と誰が結婚しているか、というのは極めて高度な個人情報ではなかろうか? 違う?

 

その上で、現在の社会において、しょうがなく法律婚をしようとし、男性が姓を変えようとすると、なぜ周囲の皆様に抵抗されるのか、ということへの疑問。

番組上最も男性が姓を変えることに抵抗を示したのは、夫の父である。「なぜ名前を変えたくないのにお前と付き合うのかわからんよ」というのは、亀井静香のいうところの「あなた、本当は愛されてないんだよ」と通底する。

この人らの論理に則って主張するならば(本来その必要もないのだが)、「二人の間に愛があるから相手を尊重して姓を変えようとしている」のであって、この人らはなぜか女に愛されることばかり考える。

どうも理解し難い。

こういうのって、もう理屈じゃないんだろうなあと思うので、説得するだけ無駄だと思うんですよね。

冷笑的とか言われるんでしょうけど、こうやって言い張る人たちを説得して、理解してもらって、許しを得て(!)、そしてようやく結婚できるなんてナンセンスすぎる。

時間も無駄だし、気持ちもすり減る。

そればかりでなく、それらが達成されて「さあ、仲良くしよう」なんて無理なことではないか。わだかまりなく、つつがなく関係性を築けるか? 多くの人には困難な事業になるだろう。

私は早々に諦めるべきと考えるタイプである。「親子の縁も切れず、結婚もできず」というナレーションもあったが、果たして何を大事にするのか。親を大事にしたいのなら、むしろ妻に姓を変えるよう説得する方が筋ではないかとさえ思う。

いや、まあ、そのように「誰かに大切な何かを諦めさせる選択を迫る」のが現在の婚姻制度なのだ、とひしひしと感じもするのだが…。

一方、夫の母も当初は「たかが名前、されど名前、あるところには家系図があって、氏というのは大切なもんである。先祖は大切にせなあかんよ」と言う。とはいえ、姓を変えようが変えまいが先祖を大切にする人はするししない人はしないし、しなくてもボロ儲けしてる人もいれば、しているのに貧乏な人もいれば、していてボロ儲けしている人もいるし、していなくて貧乏な人もいるし、していようがしていまいが関係なくみんな生きたり死んだりしているので、まあ、どうでもいいです。

 

そして最後に、亀井静香氏である。すごい。映画「主戦場」を見た時のショッキングさに近く、笑ってしまう。

正直な話、彼が何に怒りを覚えているのかわからない。あまりにも情緒的すぎて、反論のしようがないのだ。反論すればするほど怒って手がつけられないだろう。

選択的夫婦別姓の反対派はもう少し論理的に制度が受け入れられない理由、理屈を形成すべきではないか。「家族の絆が壊れる」というのはあまりにも情緒的だ。「壊れませんよ」という反論に対して、平行線を辿ってしまう。たまたま夫婦同姓が成立した社会で、それを現実だと説得しにかかるのは、なんだかなーと。失われるものを並べ立てるのではなく、得られるものを示してほしい。

まあ「多様性が怖い」のだろう。多様性が怖いことは恥ずべきことではない。誰しも怖いと思っている。特に多数派に属する人は。しかし、そういう言い方を誰もしない。

そして思うのは、森元首相もそうだが、これは老人の意見なのか、というとそうでもないことだ。若い人でも夫婦別姓を理解できない人はたくさんいる。その人たちと向き合う日が来ないといけないと思う。

 

放送を見ても、今しばらく夫婦別姓は達成されない気しかしなかった。

「今困っている」人がたくさんいることは間違いないし、はやく踏んでいる足をどけてほしい(RBG!)だろうけど、なんだかずっと空転している。こんな問題にいつまでもかかわりあう方が馬鹿らしい、というほどまでに。

そして、男女共同参画担当大臣が丸川氏になった。氏は選択的夫婦別姓の反対派として知られる。

しかしながら、ここで一つの妄想をしてみると、丸川氏は実際の生活上では旧姓使用をされていることから、夫婦が別姓で過ごすことそのものに反対ではないと見る(推測)。

であるならば、事実婚の権利拡大だ。本稿の序盤戦だ。旧姓使用に抵抗がないけれど戸籍制度をいじるのには違和感があるなら、事実婚の権利を拡大することが男女共同参画社会推進の方向性として浮かび上がるだろう。旧姓使用の拡大は十分に推進されているのだし(基本計画に掲げられているけども、内容的には「それっぽいことはしますが、何もしません」って感じである)。

事実婚の権利拡大に踏み出せば、戸籍制度は骨抜きになる。すれば、丸川氏は最も守ろうとした戸籍制度を骨抜きにする「戦犯」となる、獅子身中の虫と化す可能性もある、かもしれない。

まあ、妄想に過ぎない。第五次男女共同参画基本計画の骨抜きの方が現実的であり、無為な五年となる方が公算大だ。とはいえ、女性リーダーの増加は着実に進む。すべての女性が選択的夫婦別姓に賛成でないからこそ、先に述べた妄想のような展開を招く「悪女」の出てくる可能性は広がるように思ったりする(ここでいう「悪女」とは(先の「戦犯」もそうだが)、選択的夫婦別姓の反対派の目線で、「女性のリーダーだからこそ」あえて貼られるレッテルをイメージしての言葉であり、これが男性リーダーなら誰もそんなことは言わない、というやつである、念のため)。

 

あーあ。

虚しくならないように、生きる術が、一番ほしい。私はすぐにニヒリズムに陥るが、みなさんにはあきらめないでいただきたい。他力本願。寝る。