金曜日の夜、友人らと飲みながら、ふざけてダウンロードしたマッチングアプリを、日曜の夜に開いた。その時は運転免許証が要るとか、登録する写真がどうとか、そういう手間がいろいろあることを教わって、「わかったわかった、また後でやるから」と皆を宥めてその話は終わったのだったが、次飲んだときに絶対イジられるので、とりあえず登録することにしたのだ。もしかしたら、可愛い女の子と会えるかもしれないし。
身長や職業、休日や実家暮らしかどうか、喫煙や結婚歴の有無、年収だのを聞かれ、そして何歳くらいの相手を希望するかを登録した。この登録に、何の引っかかりも覚えずにボタンを押せていける奴は怖いなと思った。まるで、自分を切って秤にのせて店頭に並べるような気分だ。
そして写真登録。一昨日、飲み屋で取られた顔の真っ赤な自分がフォルダの中にあるが、これはない。残念だ。もう少し酔う前にとってもらえばよかった。何枚か自撮りしてみるが気に入らない。なんてひどい顔なんだ。一昨日、深澤が何度も「マッチングアプリに登録する写真は人にとってもらったものがいい」と力説していた。確かにそうだと思う。なんなら、顔が赤くてもこの写真の方が良さそうだ。そのほか人に撮ってもらった自分の写真は、遠景で顔がはっきりわからなかったり、隣の人が被っていたりする。仕方がないので、顔の赤い自分を登録した。また次の飲み会の時に、みんなに撮ってもらおう。
それで検索するとたくさんの写真がずらっと並んで出てくる。写真の下の一言を見ながら画面をスクロールしていく。ピンとくる、こない以前に何が何だか意味がわからない。さっき自分の肉を店頭に並べてみたら、目と鼻の先にも肉が売っているような感じで、声も出ない。
本当なら次に飲んだ時に「実は、何人かとデートしてさ」くらいのネタを投下したい。したいが、これ以上この画面を見るのは退屈だった。
スマホを放り投げて寝転んだ。窓の外は真っ暗だった。部屋の隅のフリースを見て、そろそろ冬も終わるよなと思った。