振りシャーというのがあったな、とふと思った。
振りシャーというのはシャーペン(シャープペンシル)の一種である。
多くのシャーペンは頭部分にあるボタン部分をカチカチッと押すことで芯を出す構造となっているが、この振りシャーは振るだけで芯が繰り出される画期的な構造を有していたのである。
今もあるのだろうか。あるのはあるかもしれないが、使われているのだろうか。
少なくとも会社で見かけたことはない。
会社で見かけるのは消せるボールペンばかりだ。
久しく文房具事情から遠ざかっている私である。
この振りシャー、振って芯を繰り出す際、カチカチと音を立てることから、学校によってはテストでの使用を禁止する等の制約が設けられていることもあった。
マア、学校というのはよくわからない理由で禁止事項を設けるものである。
小学校受験をした時、先生らから鉛筆を使うよう指導を受けた。
様々な学校を受験するため、あの学校ではシャーペンが許可されているがあちらでは禁止、振りシャーはダメだが通常のシャーペンは許可されている、等々細かなルールの差異に翻弄されないよう、常から鉛筆を使っておけ、という理屈である。
たしかに、鉛筆を禁止している学校はない。せいぜい、バトル鉛筆のように鉛筆側面に不要な記述がないことが求められることはあったけれど。
くわえて、シャーペンはなんだかんだ機械である。機械であるから壊れる。壊れたら一貫の終わり。焦ってしまえばたとえ試験監督に鉛筆を借りられたとしても普段の実力は出せない。
その点、鉛筆は壊れることはない。芯がバキバキに折れることはあるかもしれないが予備をたくさん持っていけば良い。一本くらい生き残るだろう。というか鉛筆削りも持って行け。
もっともな理屈だ。
会社でカチカチ、シャーペンを振っているおじさんがいたら、ちょっと怖い。
大人になると、受験の時のように一心不乱に紙に向かって、素早く思考をめぐらし、書き付けるというような行為をする機会はほとんどない。
中島らもといとうせいこうは、出演するNHKの番組のテーマが「受験」だったため、二次方程式やらなんやら中学生の数学テストが解けるか試されたそうだ。
さっぱりわからなかったのであるが、番組ディレクターに「できません」と言うのも嫌なもんだから「もちろん解こうと思えば解けますが、あえて解きません。仮にここでxの値を出したとして、しかし設問者はそのxの値を何に使うつもりなんですか。大人はなぜそれを解かないといけないのか、真意がわからないうちは軽率に答えるわけにはいかんです」という屁理屈をこねたそうだ。
まったく、そのとおりである。大人というのは答えることにすら責任が伴うのである。軽々に答えるわけにはいかん。
はてさて、今時の小学生中学生はどんな文房具を使っているのだろうか。
私の知らないようなすごい筆記具あるのかもしれない。
一瞬ワクワクしたが、私がこれから先、そのすごい筆記具を使うことはないだろう。
大人は無責任にすごいすごいと流行に乗ってはいかんのである。いや、知らぬ間に流行に乗れなくなるのが大人、なのかもしれない。