Nu blog

いつも考えていること

スケッチ(かけこみ乗車)

発車サイン音が鳴り終わるとドアが閉まります。という大きな文字が書いてあることに今日初めて気がついた。なんだこれ。これ今まで読んだことある人いるのか。「かけこまない」とその上に書いてあって、駆け込み乗車をしないように注意する文章らしい。プラットホームを見渡すと、同じ警告文がたくさん貼ってある。でも、と思う。駆け込む人は駆け込もうとするからこの文章をプラットホーム上で読んだら暇なんてないんじゃないだろうか? だとすれば、これは誰のために書いてあるのだろう。まあ、もしかしたら駆け込もうとした瞬間にこの文字が目に入って諦める御仁もいるかもしれない。その人のために掲げられているのだろうね。うん。

私はこれまで駆け込んだことがない。電車だけじゃなく、何事も。待ち合わせは五分前、いや時には三十分前には現地に着いて時間潰しをしてきたし、だから電車は時間に余裕を持って乗るし、そのためには早めに家を出るし、そのために早起きするし、そのために早寝する。提出期限は守るし、受験就職結婚子供そして家を買うまで、平均的なタイミングを逃さず、みんながそれをする頃に私もそれをしてきた。慌てたり、恐れたり、戸惑ったりすることなく、やってきた。

だから先日異動してきた三上さんが、時間ギリギリに出社し、休み時間直前まで机に突っ伏して寝て、定時間際に大きめの案件を説明し出し、終電まで働く姿にはほとほと呆れるしかなかった。聞けば、受験も補欠合格の滑り込み、卒業論文も就職試験も泣き落とし、結婚はタイミングを逃し、子供も家も予定なし、貯蓄なし、休みの日は寝溜めする、そんな人だった。

いずれ私も彼も死ぬ。どう生きようが、何年生きようがあまり関係ないだろう。子供も家も、死んだ後には関係ない。駆け込んだ回数で死後の世界が変わるなら、なんて無意味なことを考えても仕方がない。むしろ駆け込んででも間に合わせたことを評価される死後の世界があったっていいだろうし。

そんなわけで最近は働くのが楽しい。三上さんを横目に私は定時で帰る。この人の残業に付き合いたくなはいので。