岡野大嗣の『たやすみなさい』を読んだ。
写メでしか見てないけれどきみの犬はきみを残して死なないでほしい
ぼくの聴く音楽こそが素晴らしいと思いながら歩く夜が好きだよ
渡っちゃえ、って渡った信号を渡りきるまできみと笑った
たのしみにしてたライブの帰り道で待ち遠しかったことをなつかしむ
ねむくなるとねむいにおいになる犬のねむいにおいをかぎながらねる
といった優しい短歌が並ぶ。阪急電車や泉の広場(たぶん)、ミスドやニトリ、TSUTAYAやゲオ、タワレコ、無印、イオンモールといった馴染みのある場所が出てきて、映画や音楽、SNSでのやりとりやリアルなやりとり、バス、電車、車といった交通手段、そして夜景が現れては消える。「折に触れて思い出す気分」「その気分の背景にある時間と光景」を書きたかったと著者はいう。「もういやだ死にたい、そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい」と歌った『サイレンと犀』から遠く離れず言葉を紡いでいることに安心を覚えた。