Nu blog

いつも考えていること

九月末のこと

別に誰も気にしてないと思うんですけど、今月から、週二回ではなく、一回の更新にします。

 

さて、九月の末日の二つの出来事を書きたい。

一つ目は秋分の日に松陰神社前駅に行ったこと。目的は、DE CARNERO CASTEというカステラ屋さんで開かれていたイラストレーターのkilldiscoさんの展示「gather around the table」を観に。

https://decarnerocaste.net/

https://killdisco.work/

killdiscoさんのイラストはLRGという表紙はポップだが中身は硬派な図書館雑誌で知った。そのポップな表紙を手がけていたのがkilldisco氏だったのである。

今回の展示は、タイトルのとおりテーブルを囲むことをテーマにした作品が並べられていた。男性、女性、子供たち、花瓶やぬいぐるみ、フルーツなど、モノトーンなのにカラフルさを感じる作品たち。私たちも店内で揚げパンとコーヒーをいただき、文字通りテーブルを囲む鑑賞体験になった。お値段が大変お手頃だったため、ほとんどの作品が売れてしまっていたのだが、まだ売れていなかった作品をひとつ購入した(妻が)。今は部屋に飾られている。可愛らしいものである。*1

松本に旅行した際、不意に見かけた中嶋明希さん(http://www.akinakajima.com/)の作品を購入するなど、案外作品って買えるんや、ということを最近感じている。投機的な目的で、大きなお金を動かす美術市場もあるのだろうが、そうではなくて、同時代の作家さんの真摯な制作姿勢を応援し、その上で自身の生活を彩るような素敵な作品を手に入れ、飾る。そんなささやかなものである。

フェルメールなどオランダの風俗画を見ると、きっと一般庶民がささやかに貯めたお金でこれらの小さな作品を買い、部屋に一枚飾っていたのだろうと思うわけだが、生活の中でふと疲れた折にその作品が目に入って、思わず笑顔になったりしたのだろう。なので同時代の皆さん。ピカソの線画とか、ルノワールの描く女性など、そういったレプリカよりも、同時代の作家さんの作品を、気に入った一作を見つけて、購入し飾りましょうよ。などと突然語りかけてしまう。

ちなみに松陰神社前駅の商店街というのでしょうか、素敵なお店が立ち並ぶ通りでした。ああいうところに住むのが「東京に住む」なんだろうなと思う。また、世田谷線ののんびりした電車も可愛かった。うう。ああいうところに住む人生よ。

 

そして二つ目。別日、というか9月最後の日曜日。三鷹のりんてん舎さんという古本屋さんに行った。

http://www.344i.com/works.html

こういう時SNSってすごいなと思うのだが、Twitterで不意にTLに流れてきた古本屋さんで、入荷した本みたいな投稿が素晴らしすぎたのだ。うわー、めっちゃいい、好きだ!と思ってはや一ヶ月。自分にとって三鷹は遠いのです…。

行くきっかけがいるぞ、と気合を入れて、売るための本がピックアップ。あんなかっこいいお店にお渡しする本だから、中途半端なものは持っていけない。けれど、本当にいい本を売るわけにはいかない、みたいな葛藤の果てに40冊程度。けっこうあった。大きなトートバックに入れて、電車に乗って一時間。肩が抜けるかと思うような危機を何度か味わいつつ、えっちらおっちら歩いた。涼しい日でよかった。真夏だったらと思うとぞっとする。

ようやく辿り着いたりんてん舎さん。店内は本のにおい、そこここに縛られた本も置いてあるのだが、なぜか清潔な印象。神保町あたりの薄暗くてゴミゴミした古本屋とは違う。こういう古本屋があり得たのか、と妙に感嘆。日差しが柔らかに店内を照らしているのがその印象につながったのかもしれない。

頑張って運んだ本たちは査定の結果、3000円程度で買い取ってもらうことに。なんなら2000円くらいかも、などと思っていたので嬉しい。そんで店内をじっくり見回す。現代詩の本が山のようにある。よだれが出る(ウソ)。

じっくりと小一時間もいただろうか。私がいる間もちょこちょこお客さんが出入りしていた。ふらっと立ち寄ったという雰囲気の方が多そうで、さらっと1、2冊買っていったり、今日はいっかみたいな感じでさくっと出ていったり。本を読む人たちがこの街にはたくさんいるのだなあと思った。

さて、3000円分売ったのだから、その分買うぞとよだれふきふき、吟味して、ついに4冊の本を購入。

1冊目は菊地信義先生の作品集。正直に申し上げて菊地先生の作品集は大抵目を通していたつもりだったのだが、この本はなんと台湾で発売されたもの。いったいどういう経緯で作られた本なのか、さっぱりわからない。

二つ目は小林孝亘の作品集。ふっと惹かれて買ったのだが、よくよく思い出してみれば、先日国立近代美術館でやっていた「眠り」展で見た作品だった。深層記憶が語りかけてきたらしい。

三つ目は紫陽社の本。山崎浩美『君のための抒情』。現代詩。装丁がめちゃくちゃかっこいい。芦澤泰偉という著名な方が手がけたものらしい。なんちゅうかっこよさ。そもそも紫陽社が荒川洋治の出版社らしい。恥ずかしながら知らんかった。

そもそも、現代詩の棚の前でしみじみしてしまった。鈴木志郎康氏の『罐製同棲又は陥穽への逃走』があったのでうわ、すげえと思って値段を見たら18000円。そりゃそうだよね。りんてん舎さんのあと水中書店さんにも寄ったら、松本圭二氏の伝説の詩集『詩篇アマータイム』を発見。うわ、すげえと思って値段を見たら15000円。そりゃそうだよね(二回目)。

はっきり言って、鈴木志郎康松本圭二も僕にとっては伝説というか、偉大な詩人だが、一般に詩に馴染みのない人からすりゃ「?」だと思うんですよね。ただ、業界できちんとそれらが評価されて高値でやり取りされているのを見るとホッとする。昔の俺、間違ってないぞ的な気持ち。といいつつ、段ボールに封印している現代詩手帖を売りに行こうなんて思ったり。まあ僕が持って段ボールに封印しているより、ここで売ってもらう方がいくらかマシなのだ。

4冊目は『犬になりたくなかった犬』という本。かわいい。やなせたかしの絵。自分を犬と考えていない犬の話。人間とも思ってなくて、とにかく気高いワンちゃんの話。自分家の犬の話みたいな感じもする。

4冊とも末長くお付き合いしたいと思う。

 

ああそれにしても、松陰神社前三鷹の、雰囲気の良さよ。都会というとビル街、ビジネス街、たくさんの人通りを想像しがちだが、こういう何気ない住宅地の活気こそが都会だと思う。実家のあったところはどんどん寂れていって、シャッターがおり、車で10分ほどのショッピングモールだけが栄えている状態。活気ある商店街みたいな「普通」はもう、東京にしか存在しない。ショッピングモールに未来を見出す東浩紀的発想もよくよく理解できるけど、活気ある商店街に暮らしたいという気持ちが湧いてしまうもんである。

以上、秋晴れの二日間でした。

*1:ちなみに似た作風(というと失礼か)の三好愛さんという方もおもむろにリコメンドしたい。本の表紙で見かけたこともあるかもしれない。特に『どもる体』は必見でしょう→http://www.344i.com/works.html