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いつも考えていること

『パラサイト』の感想

2月末、金曜夜のレイトショーで観ました、ポン・ジュノ監督作品『パラサイト』。ネタバレあり感想です。

『カメラを止めるな』もそうだったけれど、趣味の合うツイッターアカウントの間で話題になっているのは大抵当たる。個人の趣味というのはそんなもんなのだ。

話題になっていることは認識しつつも、どのような話かはまったく知らずに映画館へ。ポスターの雰囲気からちょっと怖いらしいと察しつつ、なんかで「笑える」とも読んでいたので、気を抜いた感じで見始めた。

序盤。石をきっかけに、金持ち家族に取り入って、4人ともがそこに職を得る展開はコメディ満載。特に家政婦を追い出すための父の演技、そして金持ち妻の反応はおかしくってしょうがない。

金持ち家族がキャンプに行く間、4人が豪邸で遊び出す。このシチュエーションが、僕にはもう不穏で耐え難かった。どんな風にこの幸福を打ち破るのか、いきなり帰ってくるのか、どうするのか。ハラハラしていたら、想像していなかったことに前家政婦の登場である。親切なまでの「ここでコメディは終了ですよー」を告げるベルの音。不穏さが実態を持ち始める。

地下と地下に住む男の存在、金持ち家族の帰宅、盗み聞き、半地下のにおい、水没する半地下の家、避難所、PM2.5のない朝、ホームパーテイ、そして事件。事件後、モールス信号や届くあてのない手紙、実現するはずのない夢で終わりを迎える。一気呵成に、見せるところを見せる手腕には舌を巻くばかりだった。

 

様々な論評もあるため、私があえて「上下するシーンが格差を云々」とか「地下が半地下を、半地下が地上を刺す構造が云々」とか「インディアンは侵略される側の象徴で云々」とか書くのは止めとく。

緻密に、ひとつひとつのシーンの意味を繋げ、構成していて、映画は総合芸術だと感心させられた。俳優陣の怪演も見事で、誰一人欠けた演技がない。

とはいえひとつ言及させてもらうと、「計画」という言葉の意味だ。金持ち家族に寄生する

「計画」が成功する前半、地下夫婦にどう対応するか「計画」の破綻する後半、そして感情的になって起こした「無計画」な行動、最後に立てられる根本的な「計画」。

受験勉強を教えられ、偽造文書学科首席の実力を持ち、38度以南の道なら裏道までわかり、さらに丁寧な車の運転ができて、高級家政婦のフリもできる有能な家族が、どうして仕事にあぶれるのか。なぜ警備員の仕事に大卒が5000人殺到する社会なのか。この社会に「計画」はないのか。それとも、計画されていたことが計画したがゆえに失敗したのか。

そんな叫びや苛立ちを感じさせるキーワードが「計画」であった。

また、もう一つ気になったのは、家父長制強い家族の姿だ。長男は父に対し常に敬語で接する。是枝監督の『万引き家族』における家族像とは少し異なる姿だ。両映画の結末も異なっており、『万引き家族』が個人へとばらけていくある種家族の崩壊を描いた一方で(むろん、それはバッドエンドではなかった)、『パラサイト』はより家族の絆を強める方向へ傾いた。『パラサイト』の結末には、「家族」を社会を構成する最小単位として捉える、ある種のロマンチシズムを感じた。

 

さて、一番お気に入りシーンは話題にもなっているジェシカソング。ジェシカ、ウィトンタル、イリノイ、シカゴ…という歌。そしてすっとベルを鳴らす。あのベルからお話が加速する、その合図なわけだ。前家政婦が鳴らしたベルもひとつの合図だったし、上手いなあ…。

あ、あとはやっぱり時計回りのシーンはどうしても笑っちゃいました。初めて映画で「マジでエロい」と思った。「濡れ場です!」という雰囲気なく、覗き見している感じが、ねえ。

 

思い出しても面白い映画だった。善悪がどうのこうのとか、いろいろ言う人はいるでしょうけど、高田純次の感想が最も簡潔に映画を表しているように思う。いわく「加齢臭が気になった」とのこと。