高見順『いやな感じ』
一行目から「大傑作を読んでしまった!」という感触に満ちているのは、なんなんだろう。「これ、ヤバイやつや、ヤバイヤバイ」とあたふたしながら読んだ。
アナーキストの半生。アナーキストは実行あるのみ、ボルは口だけ!
おすすめの一節がこちら。
無法を擁護している政治は否定せねばならぬ。こんな矛盾した社会は転覆させねばらなぬ。暴動をおこして、人民の膏血をしぼっている奴らをハエのようにたたきつぶさねばらならぬ。奴らと同じ穴のムジナである政治家なども一刀両断で抹殺せねばならぬ。
いや、こんな理窟はどうでも、俺は暴動に、殺戮に、流血に魅力を感じていたのだ。理窟抜きに、俺は血に飢えていたのである。(p.156)
実に良い感じにアホである(褒め言葉)。めちゃくちゃやん、と私バカウケしてしまいました。
最終的にはどんより、なんとなく「いやな感じ」になる。どことなく「仁義なき戦い 広島死闘篇」の雰囲気を感じる。
出版社の共和国は、いわゆる一人出版社らしい。他にも面白そうな本を出していて、素晴らしいなあと思う。推察するに元々は水声社の方らしく、水声社といえば、哲学や現代詩をかじっていた私としては憧れの出版社である。『水声通信』の表紙の、近代フランス感とかヤバイでしょ? え? 知らない?
いずれにせよ、この共和国という出版社は要注目ってことです。
島田雅彦『人類最年長』
万延二年、一八六一年生まれの男の物語。
江戸から明治、大正、昭和。大河ドラマ『いだてん』を見ているので、重なるエピソードも多い。むしろ『いだてん』では正面切って語れない市井の風俗描写が魅力的である。快楽亭ブラックのエピソードも、落語家を狂言回しに据えた『いだてん』とのシンクロニシティ的なものを感じなくもない。
明治、大正、昭和の豊富なエピソードに対し、平成に関する描写はほぼない。同じことの繰り返しだと喝破されるのみである。