Nu blog

いつも考えていること

傷跡は消えない

もう1ヶ月も前になるのか。

今さらだけど、下書きのまま置いておくのももったいない。

 

その朝、その記事を読んで、「なんじゃこりゃ」と違和感を覚えた。笑えばいいのかな、とも思った。少なくとも鼻で笑った。

 

「悩んで読むか、読んで悩むか」という書籍コーナーとお悩み相談をドッキングさせた連載が始まったのは4月の初めだった。

穂村弘とかサンキュータツオとかが答えているのだけれど、書籍に結び付けないといけないせいか、いつもそんなに面白くない。

その面白くなさが面白い、という捻じれた感想。朝日新聞のお悩み相談は土曜版beの上野千鶴子岡田斗司夫の方が切れ味がいいな、なんて思ったり。

で、最初に戻って、先日読んだ「その記事」はこちら。

www.asahi.com

壇蜜さんによる回答である。

まず、悩みの内容にびっくりした。

クラスの男子に「ブラジャーの色を教えろ」とか「胸を揉ませろ」と言われる、というのである。なんなんだ、この男。怖い。

共学はこんなことがまかり通ってるのか?男子校出身としてはよく分からない。

質問の「私はエッチな体形ではない」という表現にも不思議さを感じた。「エッチな体形」? なにそれ?

 

ほんとに現実にそういう事態が起きているのであろうことを考慮すれば、その男子はセクハラをしており、質問者は性被害に遭っている状態である。

また、「エッチな体形」という表現からは「男性から評価される対象としての女性」という価値観をうかがわせる。

つまり、質問者は男尊女卑を内面化してしまっているように感じられる。

「問題のあるレストラン」というドラマで、高畑充希がやっていた役どころを思い出す。

質問を読み終えれば、回答は自ずから「そんなアホは一喝、あるいは大人へ相談してまずは被害を止めること。そして、誰かから評価される自分ではなく、自分で自分を肯定するような価値観を身につけること」というような内容になるべきかと思うが、回答者は壇蜜なため、そうならない。

おススメの本が「きまぐれオレンジ☆ロード」というバブリーな時代の「ちょっとエッチなラブコメ漫画」である。訳が分からない。

ぼくは世代ではないのだが、高校生の頃アニメの再放送がされていたので内容を熟知している。男子高校生には大変憧れる、素敵なラブコメである。

しかし、お悩み相談の答えに適しているとは思いがたい漫画だ。壇蜜さんの言う「余裕と勇気」なんて、まさか得られないだろう。

というか、なぜか回答では、そのセクハラをしてくる男子と質問者の間柄が「良い感じ」な設定になっていないか?

思いきってその手をぎゅっと握り「好きな人にしか見せないし触らせないの。ごめんね」とかすかに微笑んでみてはどうでしょうか

確実に逆効果でしかない。

「困らせても私は好きにならないよ」も効果的なセリフとしてここに書いておきますね。

絶対、効果的ではない。怖い。

 

ツイッターも大盛り上がり。

壇蜜ねえさん流石すぎる! 同級生のセクハラに悩む女子中学生に「貴女の“大人”をみせるのが一番」 - Togetterまとめ

女子中学生セクハラ相談にセクハラまがいのアドバイス?壇蜜さんの回答に反感、反論のまとめ - Togetterまとめ

セクハラを肯定するというか、「大人な対応」を強いるのは、被害を拡大するだけではないだろうか?

この件に限らず、セクハラ、痴漢等性的被害に対して「ギャーギャー騒ぐなよ」な感覚が蔓延してる。

SNSがなければぼくも「壇蜜の回答、なんか変やったな」くらいで終わってただろうが、他の人の意見を見て、ああ、やっぱり変だったんだな、とやっと分かる。

 

7月頃にマルコムXにはまっていた。

白人は「黒人差別はマシになった」とか言う。でも、それはたとえれば、白人は黒人の背中にナイフを刺して、30センチが15センチになったのだから、よかったね、と言っているようなもんだ、とマルコムXは喝破する。

すべての差別はこの比喩に尽きる。

たとえナイフが抜かれても、傷は残る。誰が自分を刺した相手と仲良くできるだろうか。

許しや寛容を刺した側は語れない。それらは刺された側の精一杯の結論としてあり得る態度の1つでしかない、と言うのに。