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izumishiyou’s diary

いつも考えていること

フェミニズムの戦略―小室淑恵にケンカを学ぶ(笑顔で脅す)

会社の偉い人が部長に渡して、部長が僕に読んでまとめろ、というのでこれを読んだ。

人生と仕事の段取り術 (PHPビジネス新書)

人生と仕事の段取り術 (PHPビジネス新書)

 

 著者の小室淑恵さんはワーク・ライフバランス社の代表取締役社長だ。

内容はたぶん自分とこの会社の広報、PR誌の延長程度のものだと思う。

部長の知ったか用に、目次からそれっぽいところをピックアップして、拾い読みした内容を切り貼りした要約を作ったのだけど、それで十分理解できる内容。

部長もこれで読んだのとほぼ同じだ。良かった良かった。

 

ビジネス書にとって、拾い読みでも分かるというのは重要だと思う。

初めから終わりまで読んで、文を味わい、意味を咀嚼する、なんてことはビジネス書では要らない。

その点において、本書は実に優秀である。全く皮肉でなく、本当にそう思う。

 

本書の内容を要約すると、

① 残業しないような段取り術を身につけましょう!

② なぜなら、これからの社会では残業しない人の方が良いから!

③ どう良いかと言うと

  ・人生における育児や介護といった生活の変化に対応できる!

  ・会社にしても、売り上げを伸ばすよりも効率的な人件費抑制に貢献してもらえる!

  ・退社後のアクティビティで人脈や発想、スキルの上達で仕事に役立てられる!

④ というわけでこんな段取り術があります!(あとは本書を読んでください!)

手元に本がないのに思い出せる程度の内容だ(④のノウハウは忘れた。なんか朝に供する仕事のメールして、夜にどれだけできたかメールするとか、なんかそんいうの。いわゆる「仕事の見える化」「共有化」的なの)。

 

というわけで、僕の会社の偉い人も読むほどに、どうやら、なんだか、小室淑恵さんは、官公庁や大企業の間でブームだ。

著作は大量にあり、内閣府厚労省の様々な委員を勤めている。

いろんなとこのアドバイザーや大学の客員教授にもなっている!

株式会社ワーク ・ライフバランス

この間も東京都主催のイベントで講演をしたことがニュースになっていた。


「長時間労働で競争に勝つ」仕組みやめよう! 小室淑恵氏が「ワークライフバランスフェスタ東京2015」で講演 | ガジェット通信

 

なんせ、小室さんの主張はとても分かりやすい。

労働者にとっても経営者側にとっても受け入れやすいメリットの提示がなされていて、聞きやすい。

とにかく受けがいい!

・労働者→生活にはどんな変化があるかわからない。育児や介護のような予想される問題、パートナーの病気、自分の病気、倒産等による失職、あらゆるリスクに対応するために、夫婦がともに働き、収入を切らすことがないようにするために、残業のような仕事が生活を支配する構造を脱しよう!

・経営者→これから先、従業員には育児や介護が降りかかってくるのは目に見えている問題。その対策のためにも、職場環境を整え、強い経営体質を作っておきましょう!そうしないと優秀な人材が生活の問題で辞めてしまいますよ。あるいは職場環境の良い同業他社に移ってしまうかも…。それに、残業の削減は人件費削減につながるし、退社後のアクティビティはら新しいアイデアの源になる可能性もあるのだから、これをせずにどうやってこれから会社を経営して行くんですか!

 

ウィンウィンの関係、なーんて使い慣れない言葉さえ使いたくなる。

決して誰かの「権利」を主張しない。

ただ、メリットを説く。

こうするとこういう良いことがありますよ(しないと大変なことになりますよ)、もちろん心配な点があると思うけど、その解決には「段取り術」があって、不安をバッチリ解消します!

営業マン、商売人の語り口だ。ワークライフバランスという、社会的な課題をビジネスの問題として焦点を絞る。

 

実際にはこの主張は、経営者や男性労働者に対して相当なハードルの高い要求をしている。

「本当のデメリット」、「コスト」については語らない。これぞまさに営業だ!

どうハードルが高いか。

まずは経営者からすれば、福利厚生費の上昇が待っている。たとえ、残業代が削れようと、頭数は減るどころかむしろ増える可能性もあって、諸々を合計した人件費が下がるという保証はない。(このあたり、もしかすると著書や講演において、しっかりとした反論があるかもしれない)。

また、24時間いつでも反応してくれる「社畜」がいなくなる。経営者からしてみれば、飲みに行く前にふと湧いた疑問を調べておいてくれる便利な「正社員」はいなくなる。みんな定時で「ヨガ行きます」とか「英会話」とか「パソコン教室」とか「陶芸」とか言って帰っちゃう。(まあ、そのための段取り術なんですね…)。

 

そして労働者側からすれば、これは男性への要求がある。

子育てと介護だ。今まで女性のに押し付けてきた仕事が男性に回ってくる。

しかし小室さんはとてつもなく素晴らしい理屈でこれを納得させる。

 

その理屈とは、

「子育ては私が頑張ったのだから、親の面倒はあなたが見てね。だってあなたの親なんだし」と言われないためにも「2人で子育てすることで、2人で介護をする流れを作りましょう」

 

はっきり言って、感動した。

あたかもこれまで女性に押し付けていたことを「なかった」ことにしてあげる華麗なスルー力。でも、もちろんなかったことになんかしてないから、この後静かにキレるのだ。

つまり、優しげに「男に仕事がふりかかるから、女が助けてやりましょう」と言いながら「その前にまず男は育児やれよ」と吐き捨てる二段構え。

男は前段の恐怖と優しさ(枝雀師匠の言う「緊張と緩和」ですね!)によって、後半の命令にうなづくしかないのである!見事だ!ブラボー!

 

これは「女性の権利」という旗を掲げ戦ってきたフェミニズムのしたたかな戦略である。

新しいかどうかまでは僕では判断できない。ただ、僕にとっては新しい。

少なくとも、正義や論理、倫理といった堅苦しいものから導かれる手法ではなく、ビジネスという嘘が誠か、言った言わない、ハンコ押してある押した覚えない、といった泥仕合から生まれた戦略じゃないだろうか。


この発想、年始に観たNHKの「ニッポンの大転換」における国際政治学者の三浦瑠麗さんの「保守が納得して呑むロジック」というのに通ずるものがある。


「ニッポンの大転換2015」番組収録後インタビュー:三浦瑠麗 | 語った | ジレンマ+

 

「保守が呑むロジック」とはなんのことかという説明から(薄々お分かりかとは思う)。

これまで、フェミニズムは「女性の権利を守る」ために変化を求めていたけれど、それでは何も変わらなかった。

なぜ、当然のこと、どう考えても認められるべきことが認められないのか。

それは、社会を作り上げている男性(高齢層)側からすればその理屈は、自分たちの得た利益を脅かすものでしかなかったからだ。たとえ正しかろうと、受け入れられないものは受け入れられない。

ならば、この「権利」という正義、倫理というアプローチを捨て、彼らの土俵に上がり、損得から説得するべきである。

つまり、「少子化」。自分たち(男性)の老後を支える層は少子化によって脆く、薄くなっていることを争点とし、産める環境を整えることを主張する。ひいては、女性の権利を獲得する。

男性にとって問題であるのだから、解決しよう、というのが、「保守の呑むロジック」である。

女性のための避妊用ピルはなかなか認可されなかったのに、男性のためのバイアグラはすぐに認可された、という男性社会の歪んだ構造を利用して、女性のための問題を男性のための問題とすり替え、前進させる戦術だ。

 

三浦さんは「ワーキングマザー倍増計画」という「少子化」にスポットを当てて「保守呑み」戦略の論考を書いている。必読である。

ワーキングマザー倍増計画(三浦瑠麗)/コラム/東京大学政策ビジョン研究センター


上野千鶴子さんを読んでフェミニズムを学んできた人からすれば、驚きではないだろうか。あるいはフェミニズム=田嶋陽子さん=うるさいおばさんというステレオタイプがどうしてもちらつく人にとっても驚きだろう。

フェミニズムは「どうしてわがままはいけないの!? 男の方が何倍もわがままじゃないか!」と主張するものだと思っていたし、僕はその姿勢に「そうだ!」と思ったからこそここ一年、フェミニズムや女性の働き方、権利というような本を読むようになったのだ。 

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

 

この遙洋子さんの本は名著である。

ぜひ、小室さんを読む前に原初的な怒りとそのやり場を体得するためにも読んでほしい。

三浦さんや小室さんの姿勢はいわば「男ってわがままですよねー。このままでは滅びますよー。どうにかしませんか?」とにこやかな笑顔で言っているような感じだ。

男性社会の人々は、にこやかな笑顔にはフラフラついて行くわけである。怒ってる人にはそっぽを向いたり、「ブス」や「ヒステリー」といった最低な言葉で対応する。

そもそもその態度にうんざりする、というところから始まりそうになるが、ぐっとこらえなくちゃならない・・・のか。

 

まずは、「保守呑み」戦略なんだろう。

まずは、「似非でもフェミニズム」を呑ませることからだ。

でもこれで少子化が解決し、景気が上向けば、また女性は家庭に押し込められる。

なぜなら、女性を仕事に駆り出したのは、少子化が進み、景気が回復しないからである。解決してしまえば、逆戻りである。そしてまた、一から女性は戦わなければならない。あるいは景気が悪くなり、少子化が進むのを待つか。

そうならないためにもその間に「教育」するしかない。嘘から出たまこと、時間を稼いで教育する。

結局外堀を埋めた外圧だけでは中身が変わることはないだろうから、戦略の一つは戦略の一つだ。

「わがままのなにがいけないのか!?」と憮然とした表情で言い続けることも絶えてはならないのだ!(男性も同様である)*1

*1:わがままって言っても、先日帰省したのですが、父親が以前と同じように(参考→愛情のある手料理は美味いのか - izumishiyou’s diary)女性に食事を作ってほしい、男の体調管理も女の仕事だというようなのとは違う(参考2→Love Piece Club - いつまで「料理」「料理」言ってんだ / 田房永子)。体調管理は自分でしてほしい。そういや、兄も僕と結婚の話をした時に専業主婦は暇だろうからバイトくらいした方がいいとかそういうような事ばかり言っていてうんざりした。どこでそんなどうでもいい発想身に着けてくるんだろう。女の人を一人の人として扱ってほしい。会話するのが怖い。えーと、そういうわがままではなく、僕も育児もしたい!一人で介護したくないから一緒にやってほしい!僕も仕事帰りに習い事に行きたい!というような、そういうわがままである