Nu blog

いつも考えていること

詩二篇「労働」

○膂力


お世話になっておりますと

ためらうことなく

言えるように

なった秋の日


その頃の私の

おろかさが

いまの私を

くるしめる


おろかであり続けている

ここから先は

私の仕事じゃありません と

(誰の仕事かわかりません と


できないことが増えていく

文字を放つために

ボタンを押した回数が

億を超えた と いうのに


この床

この壁 この柱

どれひとつとっても雇い主のもの

私は何も持てぬまま


怖がっている

誰も私を知らないことを

静寂のなか始まった世界が

騒音に満たされたのち音もなく終わる


もしも私が熊ならば

今日はどこで眠るだろう

布団にくるまる熊などいない

憂さ晴らしする熊もいない


お世話になりすぎながら

生きている

取り戻したい

奪われ失った 立ち上がり立ち続けるための 膂力を !

 

○生産の日々


文字ばかり読んでいる

なにとぞ とか

さっそくですが とか

よくわからないお手紙が

会社の中を飛び交うから

ずっとずっと 読んでいる

読んで得た情報を 適当に咀嚼する

社内のことならなんでも知ってるかのよう

規則や手続を熟読し 改訂の都度内容を把握して

この知識の先にはなにもない

畑の一つも耕せない

むしろ無意味な電力が 地球を汚していくのであって


数字ばかりが増えていく

キュウヨフリコミ とか

リソク とか

通帳の桁は上がるばかりで

不安になってしまうのだ

数字を持たない人がいるのに

これはどういうことなのだろうと

外食も 服も 電化製品も 不安を鎮めてはくれないし

いくら数字を持ったって

畑一つも耕せない

浪費濫費で 遠くの国の湖が干上がって


時間ばかり気にしている

もう十二時だ とか

あと五分 とか

気がつけば夕方だったり

目覚めたら朝だったりする

今日も電話ばかりしたが

誰ひとり納得させられなかった

明日こそなにかやってやろうと

意気込んでみてもきっと 今日と同じむなしさ

畑一つも耕せない

関係者皆寝不足になり


なんの夢もなかったからこうなったのか

こうなるから夢など持たなかったのか

なにもしないためならば なんでもするとうそぶいて


生産の日々は 物も人も費えるばかり

循環を断ちゆくことが多すぎて

都市の私は土に還れない


都市の私は土に還れない!