「引き込まれないようご注意ください」という電車内の注意書きを見かけて、もちろんそれは自動ドアに手や荷物が引き込まれないよう気をつけろという意味なのだけれど、「ああ、もう私は引き込まれてしまったなあ」とユウトのことを頭に思い浮かべてしまうのは、単にノロケたいからなのだ。
自動ドアに手が引き込まれたら、すごく痛いだろう。それと同じくらい、ユウトに引き込まれたことは危ないことだとはわかってる。彼は既婚者だから、明るみになれば糾弾されるのは間違いない。最近の私の検索履歴は、不倫や浮気といった単語に慰謝料や裁判、社会的制裁といった言葉を組み合わせた物騒なものばかりだ。これらの検索結果が、私の気持ちを抑えてくれるかといえば、そんなことはさらさらない。離婚、慰謝料のような言葉も検索し、もし私たちが結ばれたとしても、お金のない生活しか送れないことを想像してみても、ユウトのいる生活がキラキラと駆け巡り、嫌なことを霞めてしまう。
まったく、32歳にもなって恋愛を、しかも不倫をして毎日がきらめくなんて。カッコ悪くて、客観的にはみてられない。けれど、ユウトと行くレストラン、バー、ラブホ、それら暗がりの景色を思い起こせば思い起こすほど胸が熱くなる。
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