千葉市美術館の『大・タイガー立石展』に行った。緊急事態宣言で都内の美術館が軒並み休館させられたので、都外の美術館に人が集結しているんじゃないかと思ったが、そうでもなかった。
タイガー立石、立石大河亞、あるいは立石紘一。絵本『とらのゆめ』(福音館書店)の作者である。
1940年生まれ、60年代漫画家として活躍してしまい、70年代はイタリアで仕事し、80年代、日本に帰国し絵本などを手がけた。その絵本の一つであり代表作が『とらのゆめ』である。
『とらのゆめ』はとらのとらきちが夢の中で散歩するだけの絵本だが、途中でだるまになったり、りんごみたいになったり、迷路に迷ったりする、そんな絵本だ。
ふわふわと宙を浮くように歩くとらきちの姿は怪しさと軽快さ、不思議な心地よさに包まれている。
私の母は福音館書店さんは信頼できるという理由だけで、これを買ったのだと思う。流行りものが好きでもあったから、そうした影響もあったのかもしれない。母はそんなにシュールなものが好きではなかったから、こうやって息子が覚えているとは思ってもみなかっただろう。
もしかしたらこの深層記憶が後年、シュールレアリスムに傾倒したきっかけなのかもしれないなどと思うといとおかし。
展覧会はネオン富士から始まり、初期の漫画、日本近代の総括を目論んだ大画面三部作、イタリアでの作品から日本帰国後の作品まで余すことなく展示されていた。
特にコマ割り絵画が楽しかった。一枚の絵をコマで割って、オチをつける。漫画を基にした発想は誰にでも楽しめるもので、中世のステンドグラスなど絵画の本来の役目なども感じさせる。なぜ今誰もやってないのか不思議なくらいで、絵画のスタンダードとして広く流通しててもいいと思う。やっぱり漫画があるからダメなのかな。
特にお気に入りは「アンデスの汽車」という作品。遠近法を信じ切っていたら、そのサイズのままの汽車がこちらへ来るというオチ。オチが楽しくて、年甲斐もなくキャッキャ言ってしまった。
立石氏は56歳で病により突然生涯を終える。まったく予期されてない終わり。
70年代の自分を総括するような「富士のDNA」
という作品は、遺作でも何でもないが一つのことをやり切った区切りを感じる。自画像と、愛犬と、そのほかそれまで描いてきたモチーフたち。真面目に創作と向き合い、人を楽しませながら問題提起するという形の「自らの芸術」をつかもうとした、そんな人なんだろうと感じた。
これからどんどん注目を集めていってほしい。
最後に。今注目の美術館は?と聞かれたら、千葉市美術館を挙げたい。それくらい最近の千葉市美は最高にクールだ。
ちょっと遠いのだけれど、これからも注目していきたい。