Nu blog

いつも考えていること

スケッチ(誰も……)

だれも 見てゐないのに 咲いてゐる 花と花。だれも きいてゐないのに 啼いてゐる 鳥と鳥。

土曜日。大手町のあるオフィスビル。つい何時間か前までは、大勢の人が行き交っていた巨大なエントランスホールも、デ・キリコの絵のような静けさ。

誰も乗っていないのに、止まることのないエスカレーター。手すりベルトも、スタッフも、規則正しく吸い込まれてゆく。電気代がもったいないことだ。最近のエスカレーターは、人の気配を察知して動きだすのも多いけど、ここのはずっと、グァングァン鳴らしてる。

ひとけのない街…。背の高いビル、何階建てか、当てられる人はいないか? 太陽が真上に登り、どこにも影がない! ときおり夢にうなされたようにフラつく人も、しばらくしたら、地下に潜り込む。また誰かが姿を現した! どこからともなく現れて、すっと地下に姿を消す。

お堀の水がゆらゆら揺れて、誰にも頼まれないのに生える草。あーあ。ここの上空は、飛行機も横切らない。

誰もいないのに、開く自動ドア。誰もいないのに、光る自動販売機。誰もいないのに、流れるアナウンス。誰もいないのに、走る電車…。

そんな時のことなどなかったかのように、喧騒が訪れることを、私だけが知っている。

 

(1行目は立原道造『優しき歌Ⅰ』「ひとり林に……」より)