人間にはだれでも、恥ずかしくて人に言いたくないことの一つや二つや百や二百はある。
物心ついた時から恥ずかしいことばかりで、記憶というのは恥の集積、良かった思い出はことごとく消え去って何も残っていない。
幼稚園の頃、先生に褒められている青木くんの真似ばかりして、好きでもない砂場遊びをしたことや、小学生の頃、あやとりがしたいのに誰にも教えを請えず何本かの指に紐を絡ませていただけのことや、中学生の頃、かっこつけて洋楽を聴いていると言ってしまった手前、登下校中もイヤホンをつけていたが肝心のウォークマンを持ってなかったことや、高校生の頃、毎朝同じ電車に乗る女の子が気になって気を引きたいがために、車内をうろうろしていたこととか。
こうして30歳も半ばを過ぎると笑い話にして人に言えるが、披露する度に心が疼く。笑えないと思う自分もいる。
そればかりか現在進行形で恥をかきながら生きている。簡単な事務を知らなかったり間違っていたり、変な変換をしたままメールを送ってしまったり、上司に適当に説明して怒られたり心配されたり。そんな出来事があるたびに顔がばっと熱くなるし、脇汗は吹き出るし、しばらく後悔の念に苛まれて朝目が覚めた瞬間に叫びたくなったりする。
それでも死なずにここまで生きてきた。たまたま生き残っただけで、心の疼きのままに窓から身を乗り出して落ちてしまう可能性もあったのだが、たまたまそこまで至らなかった。図太いのか、忘れっぽいのか、自分には譲れない線がまだ別にあるのか。
あと何年経とうが恥を積み上げることに変わりはない。怒られたり叱られたりしながら生きていく。歳をとれば、間違えずに生きていけるなんてことはない。
かつては歳を取れば間違うこともなくなるのだと信じていたので、勝手に裏切られた気持ちになる。
かつての自分が、未来の自分に期待しすぎなだけなのだ。