Nu blog

いつも考えていること

スケッチ(美容院)

駅前銀座に美容院ができた。

店長は30半ばのバツイチで、サーフィンが趣味の浅黒い肌、フレームのデカいメガネで、アゴの尖った輪郭はクジャクとかそういう派手な鳥を連想させた。東京のカリスマ美容師の美容院で修行していたことが売りだという。

ここまでの情報を、母は町で一番初めに仕入れて、隣近所、PTAの集まりなんかで言いふらした。最後に「ま、なかなか腕は良かったよ」と自分の髪を見せながら。

その結果、美容院「ラルク・アン・シエル」には40代の主婦がこぞってやってくるようになった。

店長の畠中さんは、みんなが口を揃えて「山本さんの紹介で」と言うものだから、母親のことを特別扱いするようになり、ワックスやトリートメントを卸値で売ってくれたりした。

私も物心ついた時から、そこに通っていて、何の要望もない小学生から、反抗期の中学生、分からない程度に染めて欲しいとかパーマを当てて欲しいと言った高校生、雑誌を切り抜いて流行りの髪型を見せた大学生と、10年以上畠中さんに切ってもらった。

畠中さんは、若者の無理難題を適当に解釈して、納得できるようなできないような微妙な仕上がりにしてくれた。

「モテるでしょー」とか適当に振ってくる会話をあしらいながら読む『CUT』という映画雑誌が好きだった。

東京に出て、本当の銀座で髪を切った時、東京の美容室にはCUTはなかった。

あれから10年が経って、畠中さんがどうしているのか知らない。もうおじいちゃんではないだろうか。今でもあの町の若者の無理難題に応えているのか、若者はもう来なくなったのか。故郷を遠く離れた私は、検索すらしない。するのが怖くて。