「えっ、山村さんが絡んでんの? そりゃ仕方ないな、なあ」
と部長が呆れたような笑いを浮かべて、こちらを見たので、そうですねえ、と俺も口の端で笑って同意した。山村さんのことはよく知らなかったが、部長のその反応をとらまえて、とにもかくにもお追従した。
「ま、それだったらとりあえずぜんぶ山村さんに任せてさ、私はノータッチ。よろしく頼みます。もちろん、こっちでやんなきゃならないところはやりますんで」
部長は話を切り上げるように「はい」と頷いて席を立った。俺は小茂田さんに一礼して、部長を追いかけた。
「何の相談かと思ったら、こんな話だもんね。山村さんが絡んである案件は嫌なんだよ、ろくなことがないんだから」
エレベータで二人きりになってから部長がおもむろに口を開いた。
「そうなんすね」
「そうか、山田くんは知らないのか。まあ、こういうこと言うと叱られるんだろうけど、山村さんはさ、女性らしいっていうのかな。まあ、気まぐれで場当たり的でね。いや、悪い人じゃないし、面白いことは考えるんだけどもね。どうもね、ハハハ」
部長はくすくす笑いながらそんなことを言った。
「そうなんすね」
「そうなんだよ、君も気をつけな。美人なんだけどね、騙されないようにな」
エレベーターを降りると部長は、俺喫煙室に行くから、と事務室とは反対の方向に消えていった。
「週末は何するの? デートか」
部長代理がいきなり聞いてきて、いやいや特に何も、と俺は慌てて答えた。さっきからいやに暇そうに、ウロウロしてたから何か話しかけられるとは思っていたが、こんなくだらないことを言われるとは。
「今いくつだっけ? 27? 彼女はいないんかね。そういうの聞くのはダメか。27ねえ、もう四半世紀前だ。楽しかったなあ。遊んで仕事して、まだ胃腸が元気だがらトンカツとか揚げ物もたらふく食えた年齢だよ。あっはっは」
俺は微笑みを浮かべながら適当に相槌を打って、最後は一緒にあははと声を出した。隣にいた係長も菩薩のような笑みでうんうん頷き、声を出して笑った。
「まあ、あれだ。遊ぶのもいいが、酒の飲みすぎで体調崩さんようにな。それは俺か。はははは」
そして部長代理はどっかに行った。背中を見送った後、係長が「ま、あの人も若い人と話したいんだよ」とよくわからないことを俺に言った。はあ、まあ、そっすよね、と間の抜けた返事をして、金曜の夜だった。