風呂に入りながらスマホをいじっていた。TwitterやYouTubeをダラダラ眺めるだけ。半身浴の肩に汗がぷっくり浮いて、風呂の水面に向かって落ちていく。
ザ・ギースのハープ動画ばかり見てたら、どこかの音大生のハープ動画までおすすめされ始めて、見てみるけどハマるわけない。
一度ゲーム実況を踏んだらそればっかりになるし、Twitterはフォローしてないインフルエンサーのツイートを「注目されてるよ!」とトップに出してくるし、見たいものしか見れないはずが、こいつらの見させたいものしか見させてもらえなくなっちゃってる。
それでも風呂に入っている間の暇つぶしはスマホしかない。子供の頃風呂が暇すぎてものの数分で出ていたことを思い出す。風呂が嫌いというよりも、やることがなくて退屈だった。母親に注意された。たまに行く銭湯とか、旅行先の温泉なんかも嫌いだった。やることなんて何もないんだから。
けど働き始めたら、風呂でゆっくりしないと疲れが取れないって気がついた。シャワーで済ますと眠りが浅くて翌朝うまく起きられない。仕方がなくスマホをいじって時間を潰すようになった。手が滑って落としたら一巻の終わりだが、今のところそういうアクシデントは起こしていない。
そしてついにはスマホでやることすら無くなってきたわけだ。つまらないものを見ていてもつまらない。退屈で仕方がない。退屈だ、風呂から上がってテレビでも見ようか。いや、テレビすらも面倒だ。
会社から帰ってやることがない。酒を飲むのもしんどいし、すんなり寝られるような心持ちでもない。
みんな、こういうとき何してるんだろうと思う。デリヘルとか呼ぶのかな。よく知らんけど、家に女の子が来てくれて、エッチなことができるんでしょ。そりゃあ、相当いい時間潰しになりそうだ。スマホでちょっと検索してみる。いろんなお店がある。高いなあ、呼んだら何が起きるんだろうか、おっそろしいなあ、とか色々思う。
で、風呂から出る。やることがない。部屋の中央で立ちつくす。まるで自分なんていないみたいだ。この部屋の中にいることを誰も証明しようがない。自分がいなかったとしても、この部屋にも、世界中にも問題が生じない。今、たまたま、この部屋に自分の体積分だけの物体が、どさっとここにあるだけで、それ以外に何かあるわけではない。
そんなことを思っていたらくしゃみが出た。服を着ようと思った。肋骨が痛かった。