旦那さんが、リサにどの皿を使うか聞いて、リサはどれでもいいよと答えた。旦那さんはこれでもいいかなとさらに尋ね、リサは違うよ、こっち使って、と別の皿を渡した。
旦那さんはその皿に八等分されたリンゴを盛り運んできた。テーブルの真ん中に置いて、「どうぞ」と旦那さんが言った。私はお礼を言った。
リサは料理が好きだ。五年前、就職とともに一人暮らしを始めたリサは、実家では少しもやらなかった料理に目覚めた。料理教室に通ったり、調理器具を揃えたり、食材や調味料を探しに市場へ出かけたり。
なので、お皿にもこだわりがあるのかもしれない。リンゴを盛る皿。私の家なら、どの皿だろう。たぶん、二十年前にミスタードーナツでもらったオサムグッズのあの皿だろう。
リサがテーブルに戻ってきた。腰掛けようとして「フォークないじゃん」と言って、すぐに立ち上がった。それまでの二、三分の間、旦那さんと私はニコニコとリンゴを眺めていたのだった。
別の日。出がけに中学一年生の娘から
「ねえ、リビングの電気ついてるよ。消したほうがいいの?」
と聞かれた。正直、どっちでもよかったので、私は「どっちでもいいよ」と答えた。「え、でも、電気代もったいなくない?」と娘が言うので、「そうかもねえ、まあ、そんな気にしないけど」と言ったら「え、じゃあ点けておくの?」とさらに聞いてくる。
ちょっとしつこいなあ、と私は意地になってきて、再度「どっちでもいいよ」と答えてしまう。
「え、点けておかないといけないの?」「そんなことはないよ」「じゃあ、消すの?」「どっちでもいいよ」「消した方がいいの?」「うん、どっちでもいいよ」「もう、わかんない。どっちがいいの?」「どっちでもいいってさっきから言ってるよ?」
という会話の結果、「電気代もったいないから消すね」と娘は怒ったように言って消した。
それで車に乗り込んで、スーパーに出かけた。