昼寝が好きだ。
といっても、日曜の昼下がり、気がつけば夕方になっていた、というような昼寝ではなく、十五分ほどの午睡が好きだ。
ぶっ倒れたように一、二時間眠る昼寝も楽しいのだが、いかんせん損した気持ちになる。
午後を誰かにかすめ取られた、強盗の被害者のような気持ちになってしまう。
もちろんその強盗は前日夜更かしした私なわけだが。
長い昼寝よりも、短時間の午睡の方が仕事の能率が上がるとかなんとか様々な理屈がつけられて、学校でも導入されていたりする。
一日八時間労働をするようになってから、初めてこんなに午後が眠いものだと知った。
学生の時分は授業中、細切れにうつらうつらしているので、そういうことを感じなかったのである。
十五分だけ寝るというのは、難しい。
机に突っ伏す。頭の中を余計な雑念が駆け巡る。カップラーメンをすする音が聞こえる。電話が鳴って、不機嫌そうに対応する声がする。
このままでは眠れない。いや十五分目をつむるだけでも良い休息になると聞いたことがある。などと脳内の会話は混迷を極める。
してから、気づくと私は眠りから目がさめる。
眠っていたことに気づかぬまま、眠りから目がさめる。
アラームはつけていない。十五分で起きるぞ、という最初の気合が私の目を覚まさせる。
すっきりしたような、もやがかかってるような、長いコールドスリープから目覚めたSF映画の主人公の気持ちのような気分。
一方、休日の昼間、どこか渋谷にでも行くか、などと銀座線に乗って運良く座れたりなんかすると、うとうと眠ってしまって、気づけば終点・渋谷にもう着いている、なんてことがある。
乗り過ごしたわけでもないのにあたふたしてしまう。
あるいは都営三田線なんかに乗っていると、水道橋で降りるつもりだったのに、板橋本町なんかにいたりする(寝過ぎ)。
電車の中では十五分のタイマーが作動しない。
休日昼間の乗り過ごしは、酔っ払って寝過ごして他県に遠征してしまうのとは別の気持ち、照れ臭さがある。
他県に旅行しちゃった時は、もう、後悔の念しか起こらない。友人の中にはさらに財布を盗られた人もいたりする。酔うて砂上に臥すとも君笑うこと莫かれ、だ。
はて、休日電車に乗っていると、隣に座っている人が突然ビクッと体を震わせて眠りから覚め、慌てて腰を浮かしアナウンスや駅名表示なんかを見て、腰を下ろす。額には少し汗をかいていたりする。
大人はそういう時、きちんと見て見ぬ振りをする。
それでも当人の恥ずかしさはしばらく消えない。
しかししばらくすれば消えてしまう。消えてしまったらもう二度と思い出すことはない。
昼寝の最中見ていた夢のようである。
大抵のことを忘れられる脳を持って良かった。