今のところ六回ほどしか結婚式・披露宴に出たことがない。
二十九歳男性の平均出席回数を存じ上げないが、少ないのではないか。
二次会だけであれば、あと三、四回参加しているが、まあ、それはなんかのついでに呼ばれた程度のものである。
知り合いの女性は二十五歳頃からこの四年間、九月に入ると翌年三月までの七ヶ月の間、月二から三のペースで結婚式やら披露宴やら二次会やらに誘われているらしい。ということはもう、軽く五十回近い式、二次会に参加していることになる。うそーん。それは多すぎるよね、さすがに。
いや、あの人ならありえる気もしてきた…。
若い頃は初々しく、格式張った会に対してうまく振る舞えなかったものだが、先日、久々に二次会に行ったら、みんなこなれていて不思議だった。
「この料理、上から二番目のコースやな」みたいな嫌な評価もちらほら出たり。
さて、話を戻して。六回の結婚式・披露宴のうち、私は三回で友人代表の挨拶をしている。
出席回数は少ないかもしれないが、この挨拶の回数は多いのではないだろうか!
少し誇らしく思っているのだ。
初めて挨拶したのは、中高大ずっと一緒の友人である。
会社の人を呼ばない、親戚と友人だけの会だからお前が友人代表挨拶兼乾杯だと言われて困った。
ただの飲み会でも乾杯の音頭を取ったことなどない。ある程度年齢を重ねていればカッコもつくが、二十五歳の頃である。
何を言えばいいのやらで、「まさかこんなことになるとは…」などと意味不明なことを申し述べてから、おもむろに「乾杯!」と言うしかなかった。
もっと新郎のいいところを話すなどすればよかった、と少し悔しく思っている。
二回目は会社の同期で、仲の良い友人の披露宴だった。
とても仲良くしているとはいえ、そういうのは学生時代の友人がするものと思っていたから、悩んだ。何度も原稿を書き直した。
しかも前回と異なり、会社の上司が呼ばれていた。つまりそれは部署の異なる直属の上司ではないが、私の会社の役員でもあるから、当日、私はえらく緊張してしまった。
常に気もそぞろという状態。
シェフがスープの味を解説してくれて、みんな美味しい美味しいと言うのだが、何度スープをすすっても、私には味が感じられなかった。
食欲が皆無。
料理の味がしなくなるなんて、人生初の出来事だった。
三回リライトした原稿は、予想以上に大ウケした。というか、まじめに書いた部分でさえ笑いが起きたので、困惑した。
着席すると、汗がダーっと流れ出て、隣にいた友人を驚かせた。
情けないほど疲れたんである。
三回目も会社の同期で、新郎新婦ともに友人であった。
明治神宮での挙式だったので、私も和装して参列した。前回よりも緊張しなかったものの、どうも食欲はなかった。
今思えば、もっと感動的な、自分が泣いてしまうような原稿にすれば良かったと思う。泣いてしまう気がして、どこかセーブした部分がある。
仲の良い二人が結婚する、すこぶる嬉しい出来事だったのだ。
二次会の幹事として司会進行も務め、二次会のBGMも選び、一日中働いた。
すっかり、一年以上前のことである。
友人代表挨拶は、特に男性側は新郎を少しいじって、笑いを取ることを求められるような風潮がある。時折やり過ぎて場が冷めることもある。
しかし、三度やってみて気づくのは、あまり笑いを取ろうとすべきではない、ということだ。
良い面をちゃんとプレゼンしてあげなけりゃいけない。
私はもう誰かに頼まれることも、ないだろうけど…,
本当なら残りの三回のうち、二回についても挨拶したいくらいだった。
一人は後輩で、もう一人は同期である。今ならちゃんとした挨拶ができたはずだと思ったりするが、食事の味がしないのは勘弁だ。
用意されたネームプレートをずっと残している。
裏に嬉しい言葉が書いてあるからだ。
残りの一回は、実は挨拶の勉強に行っただけである。
会社の上司が、妻たるもの夫の足元を綺麗にせよだの夫が飲んで帰るのも仕事だからうるさく言うなだのくだらない挨拶だった。
誰の結婚式・披露宴だったのかは口が裂けても言えるものではない。