さて、前回の続きである。
院長先生は始業式、終業式、入学式、卒業式といった式典には必ずご出席され、お話を頂戴した。
もっとも印象に残っているのが前回の汽笛で目覚めるエピソードなわけだが、もう一つ覚えているものがある。
それがマラソンわっしょい話である。
我が母校では一月、マラソン大会としてM川を10キロ走る。
古くからの伝統行事だそうだ。
院長先生が中学生の時にも当然このマラソン大会はあった。当時はR山を登って帰ってくるというより過酷なものだったらしい。
院長先生は当時、体が弱かったらしく、スタートしてすぐしんがりをよたよたと走ることになった。
しばらくすると、もうフラフラになって、切り株かなんかに腰掛けてへたり込んでいた。
すると、もう頂上まで行った同級生が復路で、先生を見つけた。
かねてからみんなで完走しようと言っていたこともあって、これはエライコッチャとみんな集まり、先生をわっしょいわっしょいと担いで復路を引き返し、頂上まで行って、それから復路を行って、みんなでゴールした。
いい同級生を持ったなあと思った。
以上なマラソンわっしょい話である。
なぜかこの話、同一年度に二度話された。
二回目に聞いた時、マクラは違っていたので、皆始めはいつものように聞いていた。
しかし、マクラが終わり本編に入るやいなや、落語のごとく同一のエピソードが展開され、我々は顔を見合わせた。
わっしょいわっしょいのくだりになると、待ってました!という空気にさえなったほどである。
礼拝堂を出て、皆口々に「驚いたなあ」としみじみとした気持ちで教室に戻った。笑うというより、やはりどこか感動したのである。
ただ一人、前回寝てしまっていたらしいO君は、新鮮な気持ちで二回目の語りを聞いたらしく、皆に「面白かったなあ」などといって鼻白まれていた。
院長先生はもう随分前にお亡くなりになった。
小さな体、優しい瞳を思い出す。