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いつも考えていること

オーシャンズ8

オーシャンズ8を観た。アン・ハサウェイってアメリカではとんだ嫌われ者なんですね。

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女性だけのオーシャンズ。その言葉の響きだけでその映画の意味が噴き上がっている。

物語自体はスピーディに、分かりやすく、都合よくハラハラと綴られる。刑務所を出所したサンドラ・ブロック演じるデビーが冒頭から化粧品をかっぱらい、ホテルにただで宿泊するシーンで、これがピカレスク・ロマン(特に強盗映画のことをケイパームービーと言うのですね、初めて知りました。)であることを強烈に痛感させられる。そして仲間集め。こういう展開、何度も見たことあるけど、何度見ても楽しいもんですな。

いろいろすっ飛ばしながら進んでいくので、仲間となった経緯はもはや「きびだんごもらったから」並に適当なのですが、それはいいじゃないっすか。そもそも主人公デビーがど派手な盗みをする理由は「得意だから」。痺れるなあ。得意だからやる。中田英寿がサッカーをしていた理由と同じではないか(うろ覚え)。好きだからやる、じゃない。得意だから、やる。覚えておきたい言葉ですね。

めちゃくそカッコいい相棒、ケイト・ブランシェット演じるルー。立っているだけでかっこいいのに、デビーの差し出すフォークに食いついたり、かわいさも半端ない。メトロポリタン美術館を出たデビーと落ち合う際に、緑のギラギラしたスーツにはびっくりした。あれは着こなせる人がいる前提で作られた服なのか…?そしてそれを着こなしているケイト・ブランシェットすごすぎんか…?

リアーナ演じるハッカーナインボールは本作中最もおいしい役。本名を頑なに言わなかったのに、妹にあっさりばらされちゃったり、愛犬家のおじさんが食いつきそうなフライヤーをポチポチ作ったり。それでいて、メトロポリタン美術館から出てくる時のドレス姿の美しさったら!

ミンディ・カリング演じるアミータとジュエリー職人というだけでなく、ヘレナ・ボナム=カーター演じるファッションデザイナー・ローズの秘書みたいな役を務めたり、要所要所で厄介な役どころを引き受けていて、面白い。最後はオークワフィナ演じるコンスタンスに教えられたマッチングアプリで出会った男性とデートしていたが、何千万ドルも持った女性とデートしているとは、相手は夢にも思っていないだろうな…。あと、追加で盗んだ宝石も、彼女が加工したのかと思うと、めっちゃ仕事させられている気がします。

平凡な主婦?のタミーはサラ・ポールソンが演じる。この人は盗品ディーラーという役どころらしいのだが、作品中ではただの(?)コミュ力お化けである。編集部には潜り込むわ、当日も自由自在にウェイターを操るわ、ばっちりのタイミングで噴水から偽物のネックレスを取り出すわ、現実にあの人がいたら怪しすぎるでしょうよ。

先に名前だけ出してしまったコンスタンスはスリ師。男装したり、ドレス姿なのにはだしで歩いたり、自由気ままなものである。話し方のぞんざいさなどもぐっとくる。

評判が落ちる一方のデザイナー・ローズは、序盤に重要な仕事をさせられすぎで、かわいそうなくらいである。しかし、メイン・デザイナーの座を射止めたあたり、スピンオフくらい作ってあげてもいいくらい、がんばったのではないだろうか。当日の奇天烈でありながらも雰囲気にマッチしたドレス姿はキュート。

そして最後にアン・ハサウェイ。ダフネという、なんだか不思議な名前の役である。宝石を身につけさせられる、ターゲット。試着時に「太って見える…!」とパニックになる描写には何かとんでもないものを感じた。マジで思ってるんじゃないですか。大丈夫ですか。「同性の友達がいない」というセリフも、素敵なのだが、大丈夫か、アン・ハサウェイ…とダフネではなく本人を慮ってしまう気になる。

計画が遂行されて、8人がそろう最終盤をだらけさせなかったのは、評判の良くない脚本ではあるが、なかなかどうして素晴らしいのではないだろうか。

キャラクターそれぞれの魅力、その魅力の中にクソみたいな「男性を魅惑するセクシーさ」がないのも素敵だ。いろいろな作戦の中に暴力もないし、色仕掛けもない。なんとも知的な演出である。特に、途中、美術館の作品をすり替えて「バンクシー現る」と話題にさせた下りなど、なんておちゃめなやり口だろう。

盗みの当日、デビーがみんなに「この計画をやるのは、自分のためではない。世界のどこかで犯罪者を夢見る8歳の少女のためにやろう」と語り掛ける。この作品の核であり、破壊力抜群のメッセージだ。犯罪者を夢見る8歳の少女。その子が犯罪者になることを諦めてしまわぬように。たとえば、それが甲子園を夢見る少女だったら、それが大相撲を夢見る少女だったら、それが医者を夢見る少女だったら。全ての何かを夢見る8歳の少女たちが、その夢を諦めてしまわぬように、私たちは私たちの目標に向かって進みたいですよね。

高倉健ブルース・リーを観た男性たちが肩をいからせて映画館を出て行ったように、この映画を観た女性たちがクールに腕組みし、大股で歩きたくなるような映画。ぜひ、お暇な時に見てください。できたら、地上波で年1やればいいのに。こういう女性しか活躍しないお話を、しっかりテレビに映すべきです。

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