かつてから世界的に広がっていた「me too」運動とリンクして、日本でも多くの人がこれまでにあったつらい体験をツイートしている。
覆い隠されがちなセクハラやパワハラといった被害を「なかったことにしない」この運動は、覆い隠されてきた被害者たちを勇気づけていると思う。
加害者はたいてい男性なので、男性にとっては「嫌な運動だ」「なんでもかんでもセクハラか」「黙っててくれよ」と思ってしまう。
一連の流れの中で、カナダの広告が話題となったが、男性の「黙っててくれ」の気持ちがよく表されている。
日本はセクハラ問題が話題になっていますが、
— 貴臣@カナダで起業しました (@takamin_) 2017年12月19日
ここでカナダのオンタリオ州が2015年に制作した
「セクハラ防止啓蒙ムービー」を見てみましょう
※注:翻訳と字幕は私によるものであり、オンタリオ州公式のものではありません#MeToo #WhoWillYouHelp
(元映像:https://t.co/WhTlw5PYcN) pic.twitter.com/JbwQGnmNwc
「男性は」などと傍観者的に書いているが、正直なところぼく自身「うわー!」ってなった。
こういう話題を見るといつも「うわー!」ってなってしまう。
ぼくがそれら(肩を揉む、睡眠薬を入れるとか)をしたことはないし、目の前で起きたそれらを看過したこともない、はずなのだけれど…。
もしかすると自分にとってセクハラ・パワハラのある世界はあまりにもナチュラルなことで、気づけなかったことがあるかもしれない…、と思うと、もう自信はない。
そうだ。たとえば、職場の飲み会で「あの人、胸大きいよな」みたいな会話になっても、それをさえぎることができなかったりする。追従してニヤニヤ笑ってやり過ごしてしまう。
大学に入った頃、行事でキャンプがあった際に、女性がいる場所で何の気なしに着替えようと服を脱いで上半身裸になったら怒られたこともある。
就職したての頃、同期の女性に「結婚したら会社辞めるん?」と言ったことがある。
看過するどころか、ぼく自身にそういう…、そういう動画のまんま「何も言わないでくれてありがとう」という加害者マインドがある。
うわーっ!
本件にまつわるこんな独白を読んで、さらに辛くなった。
問題は男性なら不要な媚びが女性には必要とされる現状であって、媚び(させられ)ている女性を敵視することはなんだか変だ。
自身が媚びなかったことと、媚び(させられ)て利益を得た女性がいることとは別の事柄で、でも二つの事柄に共通する問題は、この社会には能力でなく、媚びを判断基準とした人が多くいることなのだ。
たとえば「あいつはゴルフで気に入られてる」とか「喫煙者コミュニティで仕事が回ってる」みたいなことはよくあるだろう。
ゴルフや喫煙(趣味や生活習慣)でもって上司と仲良くなるのはズルいのかと言われたら、そんなわけはない。
一昔前なら、営業の人はゴルフ・タバコが必須だったりしただろう。そうやって遊んだり、駄弁ったりすることがビジネスだと言われていたから。
でも、現代において、「ビジネスにはゴルフ・タバコは必須だぞ」なんて、したくもないそれらを強要されたのなら、それはハラスメントなわけで。あるいは拒否した結果、査定や待遇に不利益があってはならないはずで。
「女なんだから愛想を振りまけ」と「営業なんだから、タバコくらい吸え」に差はないのである。
上の記事では、「女を使って権力者に近づいたくせに、セクハラと騒いでいる」と本件を捉えていて、それを
越後屋が「お代官様に贈賄しようと持ちかけたらその10倍の金をとられた!酷い悪代官だ!」と言っているように見える。勿論悪代官は悪いが、こっちは越後屋に公正な競争を破壊されているのでどっちも悪に見える。
と例えているのだが、全く的外れのように思う。
本件に限らず、ただのビジネスの場において「女性は体を差し出すことを前提に権力者に近づく」という見方がかなり間違っていて。というか、セクハラに耐えられない女性の評価は不当に低く扱われる、というのが現実なわけだから、「業界で酷いセクハラが日常的になっているというのは、越後屋間で贈賄の過当競争をやっているのだと思う。なら全員いっせいのせで一切の贈賄をやめるべきだ。悪代官を産んだのも、増長させたのも越後屋だ」なんてのは、バカげた見方だ。悪代官は越後屋がお金を出すから調子に乗って搾取したのではない。最初から搾取する目的で越後屋からお金を引き出しているのである。
適切な比喩としては「お代官様に話を通しに行ったら、お金をぶんどられた」とか「身柄を拘束された」とかなのではないか。「タバコ吸わない奴とは話せない」と言われた、とか。そんな感じ。
つまり重要なことは、媚びであれ、趣味であれ、「強要」を否定することなのだ。
この記事を書いた人は、きっとこれまで大小名づけ得ないセクハラ・パワハラを受け、媚びることを強要されながらもそれを受容しなかったのだろうと想像すると、インフルエンサー・はあちゅう氏と立場は何も変わらないように思うのです。
女の敵は女、ではなく。