それ、に触れてしまったら、もう触れる前のいつもの自分には戻れない。その「それ」を芸術と呼ぶこともある。
レアンドロ・エルリッヒは「それ」を作る名手だ(と書いてみたが、これは褒め言葉なのだろうか?)。
試着室や美容室の、鏡の向こうに私がいなかったり、水面に反射するボートがどの角度から見ても揺らめかなかったり、家が溶けていたり、宙に浮いていたり、家の中を覗くと上下左右が逆さまになってたり…。
思い込んでいた世界に裏切られることでモノの見方、見え方に揺さぶりをかける。
家の中で、意識することなく段差を避けるような、通学、通勤中スマホに目を落としながら歩くような、コンビニやスーパーで商品を手に取りカゴに入れレジに並ぶような、生活の中の当たり前、普通、常識をたくさん私たちは積み上げている。
ダメなことではないけれど、何か大切なことを見落としていることがありうる?
同じような「それ」を指向する「目」というグループがいるので、本展を楽しんだ方にお勧めしたい。