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いつも考えていること

婚活で結婚できるのか―やることがヤマ積み

世間からの問いかけ 

今、ぼくは27歳だ。

同級生は男女問わず、結婚した人と結婚したい人と結婚しなさそうな人に分かれている。傾向として、結婚したい人の多くは女性で、結婚しなさそうな人の多くは男性だ。

結婚を人生の指標に位置付けたくはないけれど、27歳という年齢は、各人に結婚するのかしないのかを問いかけてくる。あえて結婚しないのか、結婚したいのにできないのか。それを公表する必要はない。しかし、「世間*1」はそれを問いかけてくる。

この問いに対する答えは、一人一人のこれからの生き方、すなわち価値観そのものと言えるほど、重大な意味を持つのではないだろうか。結婚にそんな大きな価値はない、と蹴飛ばすにしても、問いを突きつけられ、その答えを出さなければならなかったのだから。

婚活アプリの普及 

同級生の女性の何人かが、結婚を目的に「婚活アプリ」を使っている、と聞いて驚いた。

婚活アプリとは、インターネット上での「紹介」サービス(恋愛や婚活のために男女を結びつける「マッチング」とか「お見合い」)のことを指す。各サービスの自称他称は様々だが、本稿では一括りに「婚活アプリ」と書く。

ぼくがインターネットに触れ始めた15年ほど前、インターネットにおける出会い系サイトは社会問題であり、危険なもの*2として認識されていた。

その後、「出会い系サイト規制法」が制定され、出会い系サイトまたは類似サービスを運営するにあたって各社は「インターネット異性紹介事業」の届出を行い、18歳未満の利用がないよう対策を義務付けられている。

そうした健全化の流れの中、ヤフー等大手企業が類似サービスに乗り出し、かつての出会い系サイトはお見合いサイトだとかマッチングサービスなどと呼称を変え、今、婚活アプリとして普及している。

健全化したとか、届出を出しているとか、そう言われても、中身は出会い系サイトの時から変わらず、男性がセックスできる相手を探しているのではないだろうか、と認識していただけに、周囲で使っている人がいること、ましてやそれが友人間で話題となることに隔世の感があり、本当に普及しているのだな、と感じる。

 

一方で、男性で「婚活アプリを使っている」人を見たことがない。まあ、友人が少ないからだろうけれど…。

たとえば、婚活アプリを使っている、と誰かが話題にしたならば、友人たちからひやかしを受けるんじゃないだろうか、とも想像する。

男性で結婚願望を前面に出し、様々な婚活にチャレンジしている人は、テレビや雑誌で話題になっても、友人間では話題にできないことのように思う。

「なぜ男性の婚活は話題にできないのか」については後ほど考察するが、周囲の女性が婚活アプリを使っていると聞いた時、ぼくの周囲の男性が使っていない(使っていると言えない)アプリを使う男性とは、どんな男性なのだろうか、ということが気になった。 

集客方法ー男性には太もも、女性にはドレス

女性にとって、婚活アプリのイメージは、その名の通り「婚活のため」のものだろうけれど、男性にとってはそうではないかもしれない。

婚活アプリを使い始めるきっかけの多くはスマートフォン等でFacebookTwitterを使っている時に見かけた広告だと思うが、その広告が男女によって異なっていることを知っているだろうか。

ぼくが婚活アプリ≒出会い系サイトと認識していた理由の一つはそこにある。では、具体的に、男性向けにはどのような広告が表示されているのか? 

  • pairs(ペアーズ)

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  • タップル誕生

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  • その他

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男性向けの広告には明らかな共通点がある。画像では肌や胸が強調され、煽り文句には「バレずに」「一人暮らしの彼女」「可愛い女性」「美人女子大生」「選び放題」と書かれている。つまり、結婚について語らず、恋人、彼女を探すツールであること、かわいく、性的魅力のある肉体を持つ女性と関係できることを訴えているのだ。

一方、女性のユーザーには、「結婚」「婚活」「まじめな出会い」を強調した広告を打ち出していると言う。

gucchi22.hatenablog.com

二枚舌だとか不当広告などというつもりはない。婚活アプリは婚活のためだけのサービスではなく、趣味の合う異性の友人を探してもいいし、恋人を探してもいい。だから、婚活だけを広告しなきゃならない理由はどこにもない。

しかし、男性は太ももを、女性はドレスを見て、それぞれ異なった入り口から同じ店に入っている。

女性は結婚したいと集まっているが、男性は恋人を求めて集まっている。気が合って付き合ったとしても、実際の目的意識がすれ違い、ともに不毛な時間を過ごすことになってしまうかもしれない。

積み重ねない出会い

「目的意識が異なる」というミスマッチを避けるためには、プロフィールやメッセージのやり取りから、互いの目的をすり合わせることが必要になる。

しかし、そうした文字だけのやり取りでは自分の意図を伝えることも難しいし、相手の意図を汲み取ることも容易ではない。ましてや、「婚活アプリ」だと思い込んでいれば、「意図=結婚が目標であること」は一緒で、それを改めて話し合う必要はないと思い込んでしまう可能性もある。

また、たとえ男性のプロフィールに「そろそろ結婚したいな、と思っています」と書いていたとしても、どうして会ったこともない人、あるいは会って間もない人を信用できるのか?

以下に引用する記事は、信用することの怖さを感じさせてくれる。

婚活アプリって今すごい流行ってるじゃん。
あれで30-35歳くらいの結婚に焦ってる感じの女を釣って5~6回デートして完全に信用させたところで雑なセックス1回して音信不通にする遊び楽しすぎ。

一番落としやすいのは自分に自信ない女。こういう女に対してはとにかく「可愛い」って言えばOK。更に「めちゃくちゃ」をつけてとにかく「さっき初めて会ったときめちゃくちゃ可愛いと思ったよ。こんな子がアプリやってるんだって。アプリやってみてよかった。」とか言っとけばすぐに優しくなって言うこと聞いてくれる。自信が無い女は最初すげー疑り深いけど一回信用させればドンハマリしてくれるから一番やりやすい。

anond.hatelabo.jp

この記事が本当か嘘かは分からない*3

しかし、こう言ってはなんだが、「結婚したい女の子」と付き合うのは、いくつかの条件を満たせば、とても簡単なことだろう。

いくつかの条件とは、自身の年齢が20代〜30代前半で、職業は正社員、そして女性と会う時に適切な身だしなみや振る舞いができること。つまり、結婚への希望を持たせられる存在であれば、付き合うハードルは低くなる。なぜなら、そういう相手ととりあえず付き合って、結婚相手にふさわしいかどうかを確かめることがすなわち「婚活」だからだ。

後ほど「恋愛工学」や「ナンパ」と婚活の類似性について述べるが、男性は広告によって「婚活アプリ≒出会い系サイト」という認識を持っており、それを女性との出会いのハードルを下げる「文明の利器」程度に使っているのではないか。

そうした一部の男性による婚活アプリの「悪用」について、桃山商事*4は女性からの具体的な相談があったことを踏まえ、以下のように話している。

清田 他にも、セックスした直後に連絡が途絶え、またしばらくしてLINEを寄越してくる王道のヤリ目男に会ったとか、デート中にたまたま相手のスマホTwitter画面を見てしまい、後で検索してみたらナンパブログを書いてる男だったとか、そういう話が出てくる出てくる。

佐藤 うわっ、恋愛工学のニオイ……。そういえば失恋ホストでも、「僕は結婚相手にカラダの相性も求めたいから、一回ホテルに行こう」としつこく誘ってくる男とか、結婚願望をチラつかせてセックスに持ち込もうとする男の話とか、いろいろ聞きましたね。

清田 Tinderで結婚したというある女性からも話を聞いたんだけど、そこの夫婦は実はすでに離婚の危機にあるらしい。旦那がまだ出会い系アプリを使い、浮気を繰り返している疑惑が濃厚なことで、不信感が募っているとか。

佐藤 もちろん、「いい出会いがあればラッキー」くらいの適度な距離感でマッチングサービスを使ってる人も多いと思うけど、やっぱりちょっと怖いツールだよね。というのも、そういうしょーもないことをしてくる男って、別に全員がいかにもなクソ男ってわけじゃないでしょ。むしろ、ルックスもコミュ力もそれなりで、一見するとマトモな男の人が多い。

清田 実際、マッチングサイト経験者の女性たちから聞いたエピソードに出てきた男たちの中も、地方公務員、電鉄会社、大手広告代理店、外資系保険会社、小学校の教員など、身持ちの堅そうな職業の人が多かったね。

佐藤 アプリやサービス自体に罪はないし、基本的には大人として自己責任で使用してくださいって話だとは思う。だけど、背景にこういう構造があるかもってことは、頭に入れておいて損はないかもね。「恋愛したい」という意思を持つ人同士をダイレクトにつなぐ出会い系サービスって、一見すると合理的なツールに感じるけど、相手のことを知るにはそれ相応の時間やコストがかかるでしょ? そういうプロセスも一緒にスキップしちゃうわけで、逆に効率悪いんじゃないかという気もしてきたわ。

mess-y.com

一見するとマトモに見える人でも、結婚をチラつかせてセックスを求めているのだとすれば…。

そんな本心が掴めない相手と、どうやって恋愛・結婚に至る信頼関係を築き上げていくのか。

実際にそうした悩みを抱えた女性は少なくないだろう。桃山商事による恋愛相談の記事にもその悩みが寄せられている。

 これまで2回ほど会いまして、普通に食事をして、手をつないで歩いたり、軽くハグをしたりしました。そして、またこれまで通り連絡を取り合って、会おうとしても、「都合がついたら連絡するよ」と言われてそのままです。それから早1カ月が過ぎましたが、連絡はなしのつぶてです。

 わたしは恋愛経験が豊富ではなく、彼の本心がよく分からず困惑しています。せめて会って話をして、駄目なら駄目と確かめたいです。どうしたらいいでしょうか?

これに対して桃山商事は、インターネットでの出会いはプロセスを省略していると指摘する。

 よく考えると、いきなり一対一で会えるなんて結構すごいことです。「友達未満」から始まる一般的な出会いと比較してみると、その特異さが際立ちます。

 例えば会社や学校で気になる人ができた場合、まずは「同僚」や「クラスメート」といった枠組みの中で関係性を深める努力をすることになります。相手は自分をどう思っているか、相手に恋人はいないか、自然な誘い方はないものか……など、いろんなことを慎重に探りながら距離を詰め、どこかのタイミングで勇気を出してデートに誘ってみる。それでOKをもらえてようやく一対一の関係(以後、「デート関係」と呼びます)が始まります。

 ネット経由の出会いは、こういったプロセスをすっ飛ばし、いきなりデート関係から始まるわけです。みんながこれに飛び付きたくなるのも分かります。 

(1)出会う
(2)相手を知り、自分を知ってもらう
(3)相手の中に恋愛する意思があるか確認する
(4)リスクを冒して誘ってみる
(5)OKが出る
(6)デート関係になる

(中略)

 ネット経由の出会いはいきなり(6)から始まります。もちろんオンライン上で(1)から(5)のステップを踏んでいるわけですが、そこはかなり簡略化されています。

(中略)

 ネット経由の出会いは単にデート関係「から」始まるというだけに過ぎないのに、なぜか認識だけは一般的な出会いのモデルで捉えてしまい、すでにデート関係「まで」進展していると錯覚してしまう──

省略した部分をどうやって補っていくか。桃山商事は、最終的な回答として「本気で関係を築きたいと思う人に出会ったら、関係の進展ではなく、基礎工事に時間をかけろ」と書くが、基礎工事に時間をかけようとしてくれる人かどうか、その見極めはどこでできるのだろうか?

インターネットで出会う場合だけでなく、日常での出会いでさえ、それを見極めることは困難だ。どいつがクソ男で、どいつがマトモなのか? 誰を信頼していいのか?(なぜそんな前提条件で悩まないといけないのか?)

wol.nikkeibp.co.jp

 

恋愛市場で信頼関係を築くことはできるのか?

結婚は、パートナーと信頼関係を築き、家族となり、終身連れ添うことを誓い合う行為だ。パートナーのおしっこ、うんこの世話をする覚悟、とでも言おうか。

そうした深い信頼関係を築くには、桃山商事の言うとおり、たくさんの時間が必要だ。

しかし、そもそも「婚活」の持つコンセプトが、時間をかけて信頼関係を築くことと矛盾してはいないだろうか。

たくさんの異性と会い、最も「良い」人を比較検討の上、選ぶ。「良い」の中には容姿もあれば、社会的地位など、無数の要素がある。その無数の要素の中に「社会的信頼」はあっても、「個人的信頼」はない。

個人的信頼のないままスタートする結婚ほどリスキーなものはないだろうに…。

 

社会的信頼のある人を信頼する、という行動には、名前の知れた企業だから信頼する、という行動と類似している。

実際、恋愛を「市場」として捉え、論じられることがある。

つまり、容姿や社会的地位といった様々な要素により、複数の異性から求められる人もいれば、まったく求められない人もいる。そうした恋愛における弱肉強食の状況を、実際のマーケットや「就活市場」などと同様に捉え(就活もまた、たくさん内定を得る人とまったく得られない人がいる)、「恋愛市場」と比喩的に言うことがある。

かつて、ほぼ全ての人が結婚していた特殊な時代をお見合い等による「市場統制」があったと見立てて、現在の状況を「自由恋愛市場」などと言うこともある。

現在の「恋愛市場」においては、モテる人による寡占が、モテない人=「非モテ」=「負け組、弱者」を生み出し、恋愛格差が起きていると問題視する人もいる。

ぼくとしては、この「恋愛市場」言説を好ましく捉える気はさらさらないが、こうした物事の捉え方が今、人々の間でスタンダードなものであることに注目したい。つまり、ぼくたちは「選ぶこと」「選ばれること」に慣れてしまってはいないか?

 

恋愛や結婚が「自分が選ぶもの/異性から選ばれるもの」と捉えられているから、消費者や株主が企業を選ぶ市場・マーケットに見立てることができる。

消費者にも株主にも選ばれず、利益の上げられない企業が淘汰されるように、モテない男性は「俺は容姿が悪いから/稼ぎが悪いから、女性に選ばれない」と傷つき、女性もまた「化粧も服装も振る舞いも、男性に選ばれるようにしなければならない」と圧力をかけられ、ともに抑圧される。

三度、桃山商事からの引用となるが、女性が選ばれる側として振る舞う問題を彼らもまた、指摘している。

池田:彼女たちは画一化されたコンサバ女子として、再び婚活市場へ出ていくわけですよね。個人の魅力が押し殺されているのが悲しいです。そもそも、どうしてオトコに選ばれないといけない私、みたいな受け身体質を教えられちゃうんでしょう。教える側としては相当な金儲けになるんでしょうけど…。

清田:そういう女子像が「正解」として提示されてしまうと、「そうじゃないから自分はダメなのか…」 「もっと自分を磨かなきゃ…」という発想が生まれてしまい、かえってしんどくなっていくような気もするんだよなあ。失恋ホスト活動をしていて感じるのは、真面目な女性ほど、恋愛を「受験」のような発想、つまり「努力をすればするほど幸せに近づく」というような考え方で捉えているように思う。彼女たちは、女性誌や恋愛コラムをまるで「勉強」するかのように読みまくっているみたい。

池田:その気持ちは何となくわかります…。

清田:向上心があるのは確かにいいことだけど、そういう発想でいくと、自分の中に「足りないもの」「欠けてるもの」ばかりを探すようになってしまうと思うんだよね。でも、実際の恋愛は受験のように整備されたシステムではないので、努力が必ずしも実を結ぶとは限らない。それでどんどん苦しくなっていく女性も多いと思う。

桃山商事・清田隆之+池田園子の恋バナサロン Vol.5 「自分磨きは必要ない!? オープンな姿勢こそ婚活成功のカギ」 | 女子力アップCafe Googirl

婚活アプリは、「選ぶ/選ばれる」という資本主義的恋愛市場の拡大に拍車をかける一因となる。写真やプロフィールを見て、「アリ/ナシ」を指先一つで選んでいく。カタログを眺める側として実際に存在する他人を消費し、モノのように扱う。もちろん、反対に自身もカタログに載せられる側であり、自身がモノのように扱われているのだが、その事実は自分の目に触れない、薄い膜の向こう側の出来事だ。

「選ぶ/選ばれる」の果てには「もっと、もっと」という資本主義の原則・際限なき成長が大きな口を開けて待ち構えている。気の合う人が現れても、もっといい人がいるのではないか、という疑問が心から拭えなくなってしまうのだ。

そうした資本主義的恋愛市場の成れの果てが「恋愛工学」「ナンパ」である。

ナンパ・恋愛工学・婚活アプリ(一番のまちがいは相手をモノにすること) 

婚活とナンパは遠いところにあるようで、近い。先にも述べた通り、男性にとって婚活アプリは出会い系サイトに近く、彼女=肉体関係を許容される関係を得るためのツールとして使われていることもあり、街中で声をかけるという作業を排したナンパなのだ。

街中でのナンパのテクニックを明文化し、指南したものが「恋愛工学」である。恋愛工学は藤沢数希によるものだが、ドラマ化もされた水野敬也による『LOVE理論*5』も 同じものだと認識しているし、日本に限らない種々雑多のナンパのテクニック本はすべて同じだ。

これらの本で語られるテクニックは、営業マニュアルを恋愛に挿げ替えただけであり、内容は営業マニュアルで使われるレベルの「心理学っぽいもの」でしかない。

しかし、そんな「心理学っぽいもの」も自信満々に数を打てば、当たるものだ。だから、女性はある意味最も分かりやすくテクニックをまとめてくれている恋愛工学を一読し、そのテクニックを駆使する男性に冷めた目線を持てるようにすべきである。

『感じない男』の著者・森岡正博がいくつかのテクニックをまとめているので、引用する。

「イエスセット」・・・相手が「イエス」と答えることになるような質問を繰り返すと、「家やホテルに誘われても、相手はまたイエスと言ってしまう」。

ディスる」・・・「恋愛工学では、ギリギリ笑える範囲で相手を馬鹿にしたり、からかったり、失礼なことを言って、恋愛対象として相手に興味がないように振る舞う」。その結果として、相手はこちらに惹かれていく。

「タイムコンストレイントメソッド」・・・あと20分しかないなどと言って、会話に時間制限をつける。これによって、こちらが重要人物であるかのような錯覚を起こさせる。

「返報性の原理」・・・恩を売っておいて、断わりにくくする。

「モテスパイラル現象」・・・「単に他の女にモテている男がモテる、という恐ろしい事実」。だから、自分はふだんからモテているという演出するのがよい。

「リーディング」・・・「デートというプロセスは、女とラポールを築き、セックスへとリーディングしていく行為に他ならないんだ」。

「セックストリガー理論」・・・「一度でもセックスできてしまえば、かなりの確率で女は男に惚れることになるのだ」。

2017-02-02 - 感じない男ブログ

婚活アプリを使えば、ナンパのように「ラポール=信頼の形成」に多くの時間をかける必要がない分、女性とセックスすることはそんなに難しいことではない、と言える。

そうしたことを意識的にやっている男性もいれば、意識しないうちにしてしまっている男性もいるだろう。 あるいは、女性にしても、男性からのプレゼントを期待して、わざと思わせぶりな状況を作り上げるなど、男女問わず悪用は可能だろう。美人局、というと言葉の誤用になるが、女性が男性を騙すパターンもありうる。

 

これらの行為は「選ばれる」恐怖を排除し、常に「選ぶ」側でいようとした故の横暴だ。確かに、お金が湯水のようにあり、常に消費者でいられたら、どんなに楽しいことだろう。それと同様に、常に女性を選ぶ側、男性を選ぶ側でいられたら、どんなに楽しいことだろう。しかし、現実には、労働者として選ばれる側になることもあるし、好きな人に振り向いてもらえないこともある。いつも選ぶ側にはいられないのが、市場のルールだ。

言ってしまえば、恋愛工学だろうが、婚活の悪用だろうが、美人局だろうが、自分をなるべく強いものに見せて、弱い者から搾取しようとしているに過ぎない。

実際のマーケットであれば、労働力やお金を搾取(詐欺、強奪)していることは分かりやすく問題となるが、恋愛市場において、彼らは何を搾取しているのか。

彼らは、他人をモノのように扱い、「人格」や「気持ち」を搾取しているのだ。

搾取から逃げる(しかし私も搾取していないか?)

わたくし、森山みくりは「愛情の搾取」に断固として反対します―『逃げるは恥だが役に立つ

他人をモノのように扱ってしまえば、人間対人間の関係ではなくなってしまうから、信頼関係を築くこともできなくなる。 

職場でも、まるで人のことを作業する機械のように扱っている上司や同僚がいないだろうか。彼らは、部下や下請けの業者のことをモノとして捉えているから、むちゃくちゃなことを言ったり、やらせたりすることも平気だ。

家族でも、親が自分の思い通りに子どもが振る舞わないことに腹を立てたとすれば、それは子どもを自分のモノとして捉えているからで、子どもを一人の人間として扱っていれば、自分の思い通りにならないなんて当たり前のことで怒ったりはしない。

そういった人たちからは逃げるのが一番、自分のためである。

しかし、自分もまた、婚活アプリを使う中で「選ぶ/選ばれる」感覚に麻痺していないか、他人のことをモノ扱いすることに慣れてしまってはいないか、そのことを自分自身に問いかけなければならない。

なぜ男性は婚活していると他人に言えないのか 

ところで、なぜ女性の婚活は友人間の話題となるが、男性の婚活は語られないのか。そこにも「選ぶ/選ばれる」問題が潜んでいる。

前述のとおり、婚活アプリが出会い系サイトと混同されてしまう要素を持っていることも一つの要因だろうが、「男らしさ」にからめとられ、人に弱みを見せられなくなっていることが根本的な原因だろう。

そうした男らしさの問題については田中俊之の「男性学」に任せるが、男性が「婚活している」と他人に言うことは「誰でもいいから、結婚したい」「俺はもう選ぶ側ではない」という「屈辱」であり、恋愛市場において下の立場「選ばれる側」であることを認めたことになる。

しかし、そのことを「屈辱」だと感じてしまうのは、自分が「選ぶ側」でありたい、他人をモノのように扱いたいと潜在的に思っていることの裏返しだ。

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学

 
恋愛には特別なコミュニケーション能力が必要なのか? 

「選ぶ/選ばれる」の枠を脱し、人をモノではなく、人として扱うにはどうすればいいのか。恋愛市場にいる限り、その枠を脱することはできない。それは恋愛市場の外側にあるのだろう。

しかし、そもそも、恋愛市場におけるコミュニケーション方法とはどのようなものなのか?

NHKの番組「ねほりんぱほりん」で話題となった「ナンパ教室に通う男」の回で以下のような会話があった。

【タカノリ】 結局どうやって恋愛したらいいのか分からないままこうなっちゃったわけですよ。

【YOU】 なるほどねぇ。

【タカノリ】 だからやっぱり、学校ではやっぱり恋愛コミュニケーションという科目をつくってほしいと切に願いましたね。

「ナンパ教室に通う男」まとめ | 赤裸々トークまとめ | ねほりんぱほりんブログ:NHK

恋愛には、それに適した特別なコミュニケ―ションがある、とされていることがここからうかがえる。

ぼく自身も、そのように思っていたことはあった。男性の友人と話すように、女性と話すことができない。女性の前ではもっと男らしく振る舞わないといけないのか?など悩んだこともある。

この悩みの原因は、異性を特殊な生き物とみなしていることにある。

中島らもは、青春期において、女性を「聖女」か「娼婦」の2種類しかないように思えた、と書いている。手を伸ばすことがためらわれる存在。つまり、自分とは別の特殊な生き物。

この男性における「女性は特殊な生き物」という見方は根強いものだ。

たとえば朝ドラ「べっぴんさん」でも、妻たちの興した会社に対抗するように夫たちが「男会」と称して飲みに行ったように、男性は男性だけで交わろうとする。ホモ・ソーシャルの世界で「女ってのはどうしてああなんでしょうね」という会話をすることで、男性同士の連帯を高めようとする。 

実際には、いろんな女性がいることは言わずもがなのことだ。一括りにして語ることはできない。

つまり、恋愛だけに必要な特別なコミュニケーションはない。

目の前にいる一人の人、その人格を認め、尊重し、「この人はどんな人なんだろう」「この人は何を考えているんだろう」と思いやること。これは恋愛に限ったコミュニケーション方法ではない。常に、他人と接する時に必要な態度である。

先にも引用した森岡正博のブログにおいても同じことが書かれている。 

長続きする恋愛に必要なのは、相手を尊重できること、相手の立場に立てること、相手に共感できること、相手の幸せを願えることである。そのベースができてはじめて、我々は恋愛技術と性愛のテクニックを互いの快楽のために肯定的に開花させることができる。これが、私があなたにもっとも伝えたいことだ。2017-02-02 - 感じない男ブログ

これは「長続きする恋愛」ではなく、「長続きする人間関係」に必要な事項だということに、気付くだろう。

人を味わう

ぼくは過去のブログで国分功一郎の「暇と退屈の倫理学」という本を引用して、下記の通り、よく味わうには訓練が必要だ、ということを書いたことがある。

ファストフードはなぜ早く食べられるか、というとファストフードは情報量が少ないからだ、と国分氏は書く。

ファストフードをたとえどれだけゆっくり食べても、内包される情報量は変わらないので、味わうことができない。

反対に、吟味された食材、磨かれた技術で調理された料理には情報量が多く、味わわなければ食べられない。

しかしたとえそういった情報量の多い料理であっても、受け手の知識が未熟であればそれは味わえないこともある。

楽しむためには訓練が必要だと国分氏は書いているのである。

欲望の正体が知りたい - izumishiyou’s diary

目の前にいる人間の持つ情報量は、とてつもなく膨大だ。ファーストフードのような人間はどこにもいない。しかし、目の前にいる人間を、モノのように単純化してしまえば、ファーストフードのように、早く食べてしまうことはできる。「女ってこんなもの」という枠の中でパクリと丸呑みしてしまうことはできる。

それでいいのか? ぼくは人間をたっぷりと味わいたいし、味わえるように訓練しなくてはならないと思う。

訓練の方法はいろいろあるだろう。文学や哲学、映画、音楽、絵画や彫刻といった諸々の芸術から、人の気持ちの複雑さを知ることもできるし、実際に目の前の人と触れ合うことにたっぷりと時間をかけることもまた訓練になるだろう。

ともに成長する―テンポよくリズムは歩くように

恋愛にせよ、結婚にせよ、友人との関係にせよ、そして出会いの端緒はなんであれ、目の前にいるその人そのものを味わうこと。

これは時間のかかることだが、時間をかけるだけの価値のあることだ。同時に、相手にも自分という人間を味わってもらう必要がある。

自分は味わってもらえるほどの人間だろうか、と不安になることもあるだろう。で、あれば、ありのままの自分を受け入れてもらおうと甘えるのではなく、味わってもらうために成長しようと思わなくてはならない。

時間をかけて、関係を築き上げること。スキマスイッチの「ふれて未来を」という曲にこんな歌詞がある。

ふれてみたいよ それはまだ早い?

その前にやることがヤマ積み

身体に触れる前に、もっとその人を味あわなければ、もったいない。時間をかけて、恋愛を前に進める。「選ぶ/選ばれる」の先へ、越えてゆこうとする志しが必要だ。

テンポよくリズムは歩くように

ひとつひとつをかみしめながら

恋愛の楽しみは、結婚の味わいは、そんなゆっくりとしたテンポ、歩みの積み重ねなのではないだろうか。

スキマスイッチ / ふれて未来を - YouTube

最後に

最後に、婚活をすること、婚活アプリを使って、人と出会い、結婚しようとすること。このこと自体を否定はしない。

そもそも「普通の出会い」などというものは存在しない。全ての出会いは特殊だ。合コンで出会おうが、婚活アプリで出会おうが、サークルだろうが、会社だろうが、クラブだろうが、旅行先だろうが、「目が覚めて気づいたら横に眠っていた」だろうが、すべての出会いはあり得ない確率の出来事があり得てしまったというありふれた奇跡である。

婚活をとっかかりにいろいろと考えたけれど、結果として婚活や婚活アプリに限定した問題を書いたのではなく、「どうやって他人と関わっていくのか」「人間関係はどうやって構築するものなのか」といった一般的な事柄についてぼくは書いたみたいで、読んでくれた人がそのことを考えてくれたらと思う。

見せて 未来の私

笑ってるの ねえ?

二人の歩幅 呼吸 仕草 重なっていくの

見てて あの時の私

次こそは ほら 止めないで

進め、たまに逃げても明日を手に入れろ

チャラン・ポ・ランタン / 『逃げるは恥だが役に立つ』オープニングテーマ「進め、たまに逃げても」MUSIC VIDEO(full ver.) - YouTube

 

*1:世間とは、自分自身のことである(太宰治

*2:売買春、強盗や強姦、殺人といった犯罪の温床かつ練炭自殺や自殺幇助等といった問題も起きていた

*3:婚活アプリで騙された女性によるネガティヴキャンペーンのようにぼくには思える

*4:恋バナ収集ユニット⇒桃山商事 - Wikipedia

*5:水野敬也の『スパルタ婚活塾』及びドラマ『私結婚できないんじゃなくて、しないんです』は『LOVE理論』の女性版である