人のセックスを笑うな、が有名な山崎ナオコーラ。初期の恋愛を題材とした人間関係の作り方への繊細な感じ方は10代後半から20代前半のぼくの心にぐっとはまった。
恋愛を題材とした作品としては、
人のセックスを笑うな(「好きになると、その形に心が食い込む」)、
カツラ美容室別室(「あーあ。エリと一回ぐらいセックスしてみたかったな。今となっては、夢の中でもしそうにねえな」)、
長い終わりが始まる(「男の生理現象に合わせてセックスの終わりを感じなくても良いのではないか、と思った。)(だらだらと、「帰らせたくないなー」「うん」「もうちょっと、もうちょっと」「うん」の、体を触りあった」)、
ニキの屈辱(「私たち、人間関係を築いてたんだね」)
が挙げられる。
恋愛という人間関係から人間関係はもっと広く複雑だ、と山崎ナオコーラの洞察は進む。
袋小路に入り込みながら、元来た道に戻ってやり直す、苦しんでは視界が開け、また苦しむ連続。とても倫理的だとぼくは思う。
女性でありながら女性として扱われたくない。人間でありたい、人間として扱われたい。
男だ、女だと分けることはおかしいと薄々思っていた自分にしっくりくる問いだった。
最近のぼくはそもそものこの違和感こそがフェミニズムによってやっと見つけられた発想なのだと気づき、今となっては少し考え方に違いはあるものの共感は絶えない。
作品としては、
お父さん大好き(「車内を見渡すと、男がたくさんいた。そうだ。男というものは皆、繋がっている。ひとりの男は全ての男、全ての男はひとりの男だ。男とは、長い長い道だ」)、
男と点と線(「男の膨張のためにエロはあるんじゃない!」)、
この世は二人組ではできあがらない(「涙を見せると相手が動揺するから「泣くな」という論理は、肌を見せると相手が劣情を起こすから「ベールを被れ」というのと同じではないのか)、
私の中の男の子(手元にない…あれ…?)。
一人で生きることからみんなと生きることを見出し始めた山崎ナオコーラ。
これまでの作品にも通底している問題意識だったのだが、山崎ナオコーラは常に社会との関わりを意識し、こだわりを持っている。
私とは何か、というような私的な問いではなく、この社会における私とは何か、という開かれた、かつ答えの変化しうる問いを持ち続けているのである。
ぼくが山崎ナオコーラを信頼して読む理由の一つに、この問いの立て方があって、ぼくはすぐに観念的に「私とは何なのか」と考えてしまうのだけれど、そこから引き戻してくれる。そして常に「現代」について悩んでいる。
だから、好きだ。
その辺りの問題をより表してる作品に「ジューシー」ってなんですか?や昼田とハッコウがある。
なぜか手元にない。誰かに貸したっけ…?
そして、その問題は新作「可愛い世の中」でも当然、引き継がれている。
- 作者: 山崎ナオコーラ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/05/20
- メディア: 単行本
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結婚をテーマにこの物語は始まる。
さて、結婚とはなんなのか。
26歳を越すとにわかに話題となるこの問題について、ロマンティズム、ニヒリズムを排除した答えは、ほぼ、ない。何処かに夢を含み、どこかに諦めを滲ませている。
最もロマンティックでニヒリスティックな主流たる答えが「子供を持つため」であり、それが日本における結婚の社会的意味である。
もちろん山崎ナオコーラがそんな答えを出すわけではない。
山崎ナオコーラが導き出した一つの補助線が経済力である。
山崎ナオコーラの社会へのコミットの方法の一つにお金を使うという方法への興味関心があって、それ自体は本作だけでなく、他作品にも散見される考え方なのである。
どうして男の甲斐性は賞賛され、女の甲斐性は憐れまれるのか。
あるいは、結婚とは親からの(精神的、経済的)自立なのか。
この観点から、結婚について経済力を補助線に考えるのだ。
共働きし、ダブルインカムで暮らすお話ではない。女の私が結婚式やなんやかんやお金を賄ってやるのだ!というお話。
はたして主人公はどんな結婚式を開くのか、は読んでもらいたい。
まあ、そうなるわなあ、という感じである。ちょっとよく分からないお金の使い方もある。
でもなんだか、感じているこころざしや悔しさや気迫みたいなものについて、共感するぼくがいる。
人間関係にはいろいろある。
結婚という既存の制度を使って2人組を作って生きていくことも悪くない。それにその中にはいろんな種類の2人組がある。
そして反対に結婚という制度を用いない、独自の関係性もいいことだ。3人組5人組、1人、人それぞれにフィットした関係性の構築のあり方があるはずだ。
社会と関わって生きることは、自分にフィットする人間関係を見つけることで、自分の感覚を社会にフィットさせることではない。
自分の感覚を、社会にブラされず、かといって社会を無視するのではなく、一点に見つめること。
あ、そうか。だから、可愛い世の中なのか。
世の中を厳しいものとしてカチコチに捉えるのではなく、可愛いと眺めれば、自分にフィットした関係性を見つけられるような気になる。
ぼくはぼくの人間関係、ぼくの考えることと山崎ナオコーラの示すこと、考えることを照らし合わせながら、これから先を歩んでいく。
オススメ
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他にも、浮世でランチ、あたしはビー玉、論理と感性は相反しない、エッセイの指先からソーダ、男友だちを作ろう、太陽がもったいない、とかある。
あとhontoで連載していたボーイミーツガールの極端なものは単行本は未読、読まなきゃ。
そうなんです、ナオコーラ好きなんです。