Nu blog

いつも考えていること

冬のニオイ

ビルの隙間からくぐもった冬の空気のにおいがした。それは決していい匂いではなく、きっと暖房器具の排気が充満したもの。

それは私には懐かしいにおいだった。

小学校六年生の時、塾通いをしていた私の嗅いだにおいだ。

 

塾までの道のりは少し遠かった。最寄の武庫川駅から今津駅まで四駅くらいか。鳴尾、甲子園、久寿川、そして今津、だ。

今津駅で阪急線に乗り換えて、何もない阪神国道駅を通り、西宮北口駅西宮北口、通称ニシキタ。改札が三つも四つもある駅だ。そのうちの一つ、どちら口かは忘れたが、パン屋のある方の改札目の前に塾はあった。

このニシキタの駅、今でこそ小綺麗な駅だが、私が過ごした十年間、つまり2002年頃から2012年初めまで、さほど綺麗な駅ではなかったと記憶する。ガーデンズができる2008年末まで、なかなかどうして小汚かった。

しかし、その複雑な駅構造が好きだった。特に二階コンコース沿い、ペデストリアンデッキがお気に入りで、用もなく歩き回った。授業まであと二十分もあるとか、そんな時にゆっくりゆっくり外を眺めながら、端から端へ。

駅員さんらが使う扉があったり、訳の分からん資材が放置してあったり、RPGの世界へ迷い込んだような気分。 

そこをよく歩いたのは、どうしてか冬だったような気がする。そこで嗅いだのが、冒頭の冬のにおいだったような気がする。いや、もしかすると、駅の外、ビル立ち並ぶあの雑多なビルの隙間からかもしれない。

小学生の私は、そこら辺を歩いては、受験勉強のつかの間、休息していた。

勉強が嫌いなわけではなかった。完全に理解できない、というようなことは志望校のレベルであればほとんどなかった。この調子でやってれば、たぶん受かるなという手応えがあった。一年弱しか塾に通わず、そんな調子に乗ったことを思っていたからか、塾では少し浮いていた。大学生のアルバイトが自習教室にいて、聞けば解き方等々を教えてくれたから、その人とずっといた。なぜか、みんな自習教室を使わないから、私一人で彼を独占していた。

家にいる間は、ほとんど勉強せず落書きをしていたから、親からは心配されていた。でも成績は悪くないから不思議がられていた。実は私はずっと勉強していたのに、親は「集中力のない子ではないか」と思っていたようで、特に父親は私をたまに見かけては「集中してやりなさい」と言った。当時はなんの話かわからなかった。ずっと集中して勉強していたから。

 

上司のお子さんが高校二年生で、そろそろ大学受験が本格化するらしい。中高一貫進学校だから、周りのレベルも高く、志望校のランクを落とせないのが悩みらしい。浪人させる予定もないらしいが、全て落ちたらどうしたらいいのだろうか。

そもそも、中学三年間頑張って、高校三年間頑張って、それぞれ高校受験、大学受験と三年目にピークを持っていくのは、割と体力も集中力もつきそうな感じがするが、中高一貫校に行くと、六年間頑張ってその六年目にピークを合わせないといけない。途中脱落してもダメだし、最後息切れしても終わりだ。

プロのスポーツ選手でも四年に一度の大会とかにピークを合わせるために一年単位で調整するというのに、六年間学内で競争し続けて、六年目にピークを持っていくなんて、たいてい無理ではないだろうか。

中高一貫校に行った人で、そのまま国公立に行った人というのが、私の周りにあまりいない。もちろん、いる人の周りにはたくさんいるのだろうけど、私の周りは息切れしちゃった人ばっかりな気がする。

 

きっと今日も塾へ通う子供がいふ。もしかするとビルの隙間のにおいにふっと気づく。そしてそれを十余年後に思い出したりする。少し嫌で、割と楽しかった思い出として。幸あれ。